「チャレンジ」 先駆者が歩む会計士キャリア Vol.2

「チャレンジ」 先駆者が歩む会計士キャリア Vol.2

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 執行役員 
トランスフォーメーションプロジェクトリーダー 青山朝子氏(公認会計士)

特別企画としてお届けしている、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社で執行役員を務める青山朝子氏へのインタビュー。今回は第二回となる記事後編です。活躍の場を移しながら挑戦を続けてきた青山氏。現会社ではどのような壁に挑んだのか。後輩の会計士へのメッセージもいただきました。将来のキャリアに悩む会計士の皆さん、要チェックです!

その1円を稼ぐのにどれだけの汗や涙があるのか 
石田 前回は、日本コカ・コーラに入社するまでのお話を伺いました。入社するに当たって、青山さんに会社から期待されていたミッションは、どのようなものだったんでしょうか。

青山 私は財務のマネジャーとして入社しました。ミッションでいうと、日本のコカ・コーラのビジネス全体を見ながら、どこでどれだけ利益があがっていて、どのような課題があるのかを分析するというもの。ところが、ある日突然、社長室に呼ばれたのです。

石田 なんだか面白そうな匂いがしますね(笑)

青山 まだ入社して数か月の時でしたし、何しろ下っ端のマネジャーでしたから、それは緊張しましたよ。恐る恐る社長室に入ったら、当時社長だった魚谷さん(現株式会社 資生堂 代表取締役 執行役員社長兼CEO)が開口一番「青山は経営戦略に興味はないのか?」って。そんなの、ありますって言うしかないじゃないですか(笑)。話を聞いてみると、うちには経営戦略部がないから、作ることにした。そこで働かないかと。そういうことでした。これは私の推測ですが、前職が投資銀行だったので、経営戦略を立てるときに役立ちそうだと思われたのかもしれませんね。

石田 大抜擢ですね。でも、コカ・コーラシステムの統合を進めようとする動きの中で経営戦略を任されるとなるとかなり大変だったんじゃないですか。

青山 ええ、これがなかなか難しかったです。ここで、少しコカ・コーラのバリューチェーンの話をさせていただきますと、私たちはバリューチェーンをちょうど真ん中で切っています。その川上側、つまりフランチャイザーにあたるのが日本コカ・コーラ。私が入った会社です。そしてフランチャイジーを担うのがコカ・コーラ ボトラーです。そして、私のミッションはフランチャイザー側として、ボトラーの統合を進めていくこと。その機運を生み出すための出資を行うプロジェクトリーダーに抜擢されました。

石田 ちなみに、当時はボトラーは何社ほどあったんですか?

青山 14社です。これだけ狭い国で、しかも非常に高い能力を持つ競合他社との競争も激しくなっていく中で、14社でバラバラに営業推進をしていっては競争に負けてしまうという強い危機感が経営陣にはありました。そのボトラーの再編を早急にしていくというところを担うことになったのです。当時は、4社あった関東のボトラーを全てまとめて一つの会社にできたらいいなと思っていて、自分がキャリアを終えるまでにその夢を叶えられればと考えていました。ところが、あっという間に自分の夢を超えて、関東だけでなく、西日本のボトラーとも統合した日本最大のコカ・コーラ ボトラーズジャパンが出来ました。もちろん私一人の力では全くありませんが、夢が叶うどころかその先まで行く姿を見ることが出来るのは嬉しいですね。

石田 すごい話ですね。しかもそこに転職当初は全く想像していない形で関わることになった。

青山 本当ですよね。まさか経営戦略をやるとは思っていませんでした。でも、財務部門時代の気づきも大きかったです。日本企業と外資企業で財務部門の役割はこうも違うのかと驚きました。特に印象的だったのは、予算管理。日本では多くの場合、年度と月次予算が出来上がると、毎月月次決算が締まるたびに進捗を確認していく。ところが、コカ・コーラでは、毎月着地金額を予測しながら、それを対前年比、対予算比で分析し、どこに差異があるのか、また予算に到達しない場合は達成するためにどんなアクションを取るべきか、事業部門と話し合いながら打ち手を打っていく。財務部門には事業部門に寄り添いながらそのプロセスを遂行していく部署まであります。

石田 それはすごい。モニタリングではなく、数字づくりまでを財務が担っているんですね。逆に言えば、財務がそこまでやっちゃうから経営戦略部がいらなかったのかもしれない。

青山 そうなんです。でも、そこが切り離されていなかったおかげで、現場に近い所で一緒に数字をつくっていく経験ができました。会計士時代は知らなかった、実務に直接の影響を生み出す会計を体験できたのは、すごく勉強になりました。

石田 青山さんが以前、トーマツのイベントで話されていた「会計士たるもの現場を知れ」。という言葉が印象的だったのですが、あの言葉は実体験からきていたものだったんですね。

青山 そうです。今も、工場に行って製造現場へ足を運んだりしています。現場を見ないとわからないことはが絶対にあると思っています。売上や売上原価など、様々な数字を帳簿の上では何度も見ていましたが、実際にその売上の1円を稼ぐのがどれだけ大変なのかとか、その1円をきちんと帳簿に反映するまでに、どれだけの労力や汗や涙が入っているのかというのは現場を見て初めてわかること。こうした現場第一の考え方は、コカ・コーラ全体の思想としても言えることです。みんな現場に行くことをすごく誇りに思っていて、本社のデスクで理解をするよりも、やはり現場に行って現場の人と話をしに行く。そこから導き出される課題に対して、どうやって解決するかを考えることが本社の役目だと全員が捉えています。

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自分の得意分野だと思えるものが3つあれば、誰にも負けない強力な武器になる 
石田 現場を大切にするという思いは、ボトラーへ転籍することに繋がっているのでしょうか。

青山 もちろん、現場に近いところで働けるのは魅力でした。実際に、現場を知ることの大切さを本当の意味で知ることができたのも、ボトラーへ転籍してからでした。ボトラーに移った時、ちょうど営業システムの切り替えを行っていました。当時私はCFOと CIOを兼務しており、プロジェクトの最終責任者という立場だったのですが、現場を把握しきれていないまま大混乱を招いてしまったことがありました。

石田 もう少し詳しくお伺いしてもいいですか。

青山 実は、切り替え時に準備不足があり、自販機在庫のデータが現場で見られなくなるという問題が発生しました。当然、営業は激怒し、自販機の設置を望むお客様にも大変ご迷惑をおかけしました。そこで、課題を突き止めるべく、様々な指示を出していました。一刻も早く混乱を収めたかったですから。ところが、その時すでに現場では、事態を収拾すべく自分たちで考えて動いていました。そこへ、私からの指示が矢継ぎ早に飛んでくるものだから、かえって大混乱。既に疲弊しきっていた中、調子を崩す社員も出てきてしまって。あぁ、これはすごくまずいな、このままじゃ現場の混乱を収められないなと途方に暮れました。

石田 想像するだけでもキツイですね。大混乱している現場が目に浮かぶようです。それは、どうやって解決したんですか。

青山 私の直属の部下が1人、私の部屋までやってきて言いました。「青山さん、今の状況を分かっていますか」って。私は「もちろん分かっているよ。もう全然うまくいかないし、営業の人は怒っているし、お客様にはご迷惑をおかけするし、中々リカバリー策が打てないし。本当に大変だよね。みんなもうちょっと頑張って」と、たしかそんなことを言ったと思います。そうしたら彼が、「いや、そうじゃないです。現場のみんなが疲弊しきっているのをわかっていますか?みんなが疲弊しているのはこの状況を解決したくて頑張っているせいですよ。だから青山さんは現場に来て労ってください」と言うんです。そんなことで解決するのか疑問でしたが、彼はそれで解決すると断言したのです。。そこで、情報システム部のフロアで、「本当に今まで頑張ってくれてありがとう。まだ課題は山積みだけど、本当にここまでみんなが頑張ってきてくれたのはすごくありがたいと思っています。でも、私には皆さんの力がまだ必要なの」と、伝えました。

石田 それで解決したと。

青山 もちろん、その瞬間に解決したわけじゃないですよ(笑)。でも、その言葉で現場のリーダーが落ち着いた顔になったのです。私もそれを見てほろりと。そこで少しリセットされて、じゃあみんなでどうやって解決していこうかという空気に変わりました。この出来事は、意思決定者としての責任、現場を知ることの重要性、相手に寄り添う気持ちの大切さなど、本当に多くのことを教えてくれました。

石田 以前からずっとやりたかった、意思決定をする仕事にチャレンジしたからこそ得られた学びですね。

青山 挑戦することで、得られることは本当に多い。監査法人からMBA、投資銀行、事業会社と次のステージへ挑戦するたびに必ず気づきと学びを得て、成長することができました。若手会計士の皆さんにも、新たな世界へ一歩踏み出して欲しいと思っています。新しい世界に飛び込めば、会計以外のスキルが身につきます。それを繰り返していくことで、自分だけの強みが生まれます。私の場合は、会計と、コーポレートファイナンス、そして事業統合や変革推進。自分の得意分野だと思えるものが3つあれば、もう誰にも負けない強力な武器になる。それを、ぜひ見つけて欲しいですね。

最後のメッセージも、ご自身が挑戦を続けてきた青山さんの言葉だからこそ響くものがありますね。若手会計士の皆さんの参考になれば幸いです。2回に渡り、お読みいただきありがとうございました。

Vol.1


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Profile
青山朝子(あおやまあさこ)
岡山県出身
国際基督教大学教養学部社会科学科卒業
有限責任監査法人トーマツ
メリルリンチ日本証券株式会社
日本コカ・コーラ株式会社
東京コカ・コーラボトリング株式会社
コカ・コーライーストジャパン株式会社
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
執行役員 トランスフォーメーションプロジェクトリーダー


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