監査法人からファンドに転職しベンチャー企業のCFOにチャレンジするキャリア

監査法人からファンドに転職しベンチャー企業のCFOにチャレンジするキャリア

iYell株式会社 CFO兼上場準備室長 早坂太一
2016年設立のベンチャー企業、iYell株式会社に公認会計士の早坂太一氏が2018年・3期目のアーリーステージでCFOとして参画した。ベンチャー企業のCFOを目指して会計士になったという早坂氏は大手監査法人と官民ファンド在職中に、何を目指しどのような経験を経てCFOにチャレンジしたのか。早坂氏自身の今後の展望と若手会計士へのキャリアアドバイスも伺った。

6月8日(土)開催の勉強会において、ファンドのキャリアについてもお話頂きますのでご興味のある方はぜひご参加ください

ベンチャー企業のCFOを目指して会計士資格を取得
―早坂さんが会計士を目指したきっかけを教えてください
最初のきっかけは高校時代の友人の父親の話を聞いたのがきっかけでした。
その方は会計士資格を取得後、監査法人を早くに退職し、某ベンチャー企業の社長と出会い『この社長と一緒に働きたい!』と決心して転職されたそうです。入社後は役員としてIPOを果たし、誰もが知る超一流企業に成長させてきたという方でした。
身近に成功ストーリーがあり、高校生ながらに『こんな生き方、働き方ができたらカッコイイな』という思いから会計士という職業を意識するようになり、大学から本格的に目指すようになりました。

―監査法人就職の際の決め手はどういった点でしたか?
将来的にベンチャー企業のCFOとして活躍したいという想いがあったので、監査以外にも様々な業務経験を積むことができる環境で働きたいと考えていました。
有限責任監査法人トーマツのトータルサービス事業部(以下TS)では監査だけでなく、IPO支援、M&A、DD、営業、とにかくなんでも経験できる部署と聞いていたので入社を決めました。

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キャリアの転機となったファンドへの転職        
―監査法人から転職を考え始めたきっかけを教えてください
6年目ぐらいの時に一通りの業務を経験し、監査法人内部で上を目指すのか、それとも外に出るのか考えました。TSもM&A業務に携われますが、監査の仕事が半分、残りの半分でIPO支援やM&A業務に取り組むという比率でしたので、もっとM&Aの仕事に深く携わりたいと思って出向制度を使って、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーサービス合同会社(以下DTFA)に異動希望をだしました。
しかしその当時、私は主査として数多くの監査現場を回す責務があったため、上司からは「今は異動させられない」と言われ、異動希望は叶いませんでした。

異動希望が叶わなくなったことで転職を考えました。今考えると、その時異動が叶わなくてよかったと思っています。外部に転職できたことが私の人生を変えたといっても過言ではありません。

転職活動の際、転職エージェントからREVICを紹介されました。もともとベンチャー企業のCFOを目指していたので、ベンチャー企業のCFO候補ポジションでの選考も受け、何社か内定を頂いている状況でしたが、迷いに迷った挙句、ファンドに転職することを決意しました。監査法人から直で事業会社に行くよりも、若いうちにファンドに行くことで幅広い経験ができ、最終的にはより高く、遠くへ飛べる、そう考えたからです。

―監査法人からファンドに転職し最初に感じたことは?
監査法人から投資ファンドに転職した直後は、衝撃の連続でした(笑)。考え方がまるで違いました。
私の尊敬する上司は「仕事は楽しくないと駄目だ!楽しくない仕事なんてやるな!」という価値観を持っていました。
監査法人時代は『お客さまのために120%尽くすことが美学』でしたので、仕事が楽しい楽しくないで考えていませんでしたし、それが当たり前だと思っていたので、その価値観に衝撃をうけました。

入社後にもう1つ衝撃を受けたアドバイスがありました。「この世には三種類のプレイヤーがいる。事業を生み出すオペレーター、それにお金を投資するインベスター、それにアドバイスをするアドバイザー。君はこれまでアドバイザーだったが、これからはインベスターなんだからアドバイザーとしてのスタンスは忘れなさい。」ということでした。

アドバイザーであればクライアントからアドバイザリー報酬を頂くため、クライアントのニーズに全力を尽くすというのが基本的なスタンスですが、インベスターの場合は、投資先の企業価値を最大化させて初めてリターンが出るため、ファンドの利益のために全力を尽くします。投資意思決定や事業における判断の場面では、様々な利害関係者がそれぞれの思惑がある中で、様々な角度から異なる意見が飛び交います。投資意思決定や事業における判断、あらゆる場面において何が本質的に正しい選択なのかを常に考えさせられました。これらの経験が自分の視野を一気に広げてくれて、成長できるきっかけになりました。

自らロジックを組みたて、事業を切り開いていく必要があるので、これまでのアドバイザー的な発想だけでは到底たどり着かなかったと思います。「やりたいことは自分で創り出すものだ。」そうファンドでは教えられました。

また、私がREVICに入社したタイミングもとても良くて、投資先を探し、デューデリジェンスをして、投資実行してバリューアップに携わるというフェーズを3年間くらいで一気に経験することができました。

ファンドへの転職を考えている会計士は、そのファンドがどんどん投資実行するフェーズなのか、もしくはもう投資実行のフェーズは落ち着いていて、バリューアップがメインとなるのかは見極めておくとよいと思います。

―監査法人からファンドに転職する前にやっておけばよかったことはありますか?
テクニカルな面でいうと、バリュエーションの経験はしておいてよかったと感じました。上司からは「会計士ならできるでしょ?」という感覚で仕事をふられます(笑)
ファンドではM&Aのトランザクション業務に一気通貫して携わる事ができるので、とても面白いと思います。Big4系のFASではバリュエーションのみ、DDのみという部分的な視点、経験になると思いますがファンドでは全部に携わります。

会計士として最低限求められたのはバリュエーションや事業計画を作成することでした。
投資先が出してきた事業計画は根拠に乏しいものや、ロジックが甘いものであることが多いため、数値的根拠を持たせた合理的な事業計画にひきなおし、そこにファンドとしてのバリューアップ要素(アライアンス等)をスパイスとして加えていきます。できあがった事業計画を基に企業の価値を算定していきます。更にはエグジットする時の企業価値も計算し投資を実行するかどうかの判断をします。

ただ、あまり会計士という枠にとらわれずに、何でもやりました。案件のソーシング、ビジネスDD、新たなビジネス創出のための新会社設立と事業の立ち上げ、時には投資先のバリューアップのために営業部門の立て直し等、何でもやる、何でもやれるのがファンドの醍醐味です。まさに生の事業投資です。会計士にとってははじめての経験ばかりなので、基本は必死に勉強しながら、現場で学び、その価値を投資リターンに還元させていくことが重要だと思います。

―ファンドでは社外取締役などにも就任されていたと思いますが、ご経験を振り返って「これはいい経験になった!」というご経験をおしえてください。

いい経験になったことばかりでした。
ある会社の例をお話すると、営業部門の不振で業績が上がらず、社長も「もうどうしていいかわからない」という状況の会社がありました。私自身、営業経験はなかったのですが、営業部門を立て直すべく、ハンズオンで入り込んで業績を立て直しました。

当たり前のことを当たり前にやるということは簡単なようで難しいことです。大概のケースではこれができていないので、それに真剣に取り組む事だけでも良い方向に向かったりもします。業績が伸びない原因分析を行い、ステータス管理の仕方、スクリプトの作成、PDCAの回し方などを改善し実行しながら営業部門の立て直しをはかりました。コスト削減だけではなく、業績を伸ばしバリューアップさせる良い経験ができました。

―ハンズオンでバリューアップに取り組む際のポイントを教えてください。
ポイントは『人』だと思います。
トップである社長の悩みも『人』であることが多かった。私はバリューアップに取り組む際に、社長と全経営陣からヒアリングすると同時に、全従業員にも意見をざっくばらんに言ってもらう面談の機会を作りました。経営陣と従業員が相互にどのよう感じているのかを調べてみると、多くのコミュニケーションロスが発生していることがわかります。外部から来た社外取締役だからこそできるバリューアップのしどころだと思い、経営陣と従業員の架け橋になるように努めました。

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ベンチャー企業CFOへの転職背景と今後の展望      
―ファンドからベンチャー企業に転職された経緯について改めてお聞かせください
アドバイザー・インベスターと経験を経て、振り返るとすごく楽しい仲間と仕事に恵まれて、十分すぎる程に充実していました。でも、ベンチャー企業のCFOになって、会社を成長させ、上場したいという当初からの目標は変わっていませんでした。監査法人からファンドに転職したのはベンチャー企業のCFOにチャレンジする前にファイナンス実務を経験したいという理由がありました。REVICは有期の組織で3年程で次のキャリアにステップアップすることを良しとしている組織でしたので、3年程で一連の経験ができそうだと入社時からイメージしていました。

REVIC退職後の数カ月間、個人で仕事を受けながらCFOのポジションを探していたところ、会計士UPさんから「iYell株式会社(以下iYell)というベンチャー企業が上場に向けてCFOを探している」というお話を頂きました。

―双方とても良いタイミングだったと思いますが、iYell参画への決め手を教えてください。
まさに奇跡の巡り合わせだなと思うくらいのタイミンでしたね。
iYellでは事業も大切ですが、それ以上に文化を大切にしている会社です。その文化とは"社員ファースト"という理念のもと、社員が楽しく、幸せに働ける場を提供することにより、高くモチベートされた組織を作り、回りまわって"クライアントファースト"につながるというものです。「楽しみながらも信頼できる仲間と一緒にIPOを目指したい。」と思っている自分と、「会社が大切にしている文化に一番に共感してくれるCFOが欲しい。」と思っていたiYellとの運命的な出会いでした(笑)
参画の決め手は、最初に社長と会った時に「何をやるかではなく誰とやるか」という考えに共感し、その後も、役員と幹部全員と何度も何度も会って、このメンバーたちと一緒に働いたらきっと楽しいだろうなとイメージが強く湧いたことです。

―iYellのビジネスモデルを改めて教えてください
iYellは『住宅ローンプラットフォーム』という革新的なプラットフォームの運営を主たる事業として、現在急成長中の会社です。同プラットフォームは、"エンドユーザー""住宅事業者"、"金融機関"、この三者の悩みを同時に解決し、シームレスに最適な住宅ローンが借りられる仕組みを提供しています。
エンドユーザーは最適な住宅ローンを借りられておらず、約2割の方が審査落ちで家が購入できていません。住宅事業者の営業マンは家を売るのが本業のため、住宅ローンについては詳しくないので紹介した住宅ローンの承認率が低く、また総業務のうちの2割-3割を住宅ローンの雑務に費やしています。金融機関は低収益の事業にも関わらず、IT投資が進まず、収益性が更に悪化するという負のスパイラルに陥っています。このように三者三様の悩みを抱えていますが、自分達自身での解決が難しいので、iYellがその悩みを同時に解決し、シームレスに最適な住宅ローンをレコメンドし、マッチングさせることで承認率を向上させます。これにより、住宅金融をより身近なものへと転身させることがiYellの役割です。

―会社として、早坂さん個人として今後チャレンジしていきたいことを教えてください
まず会社という軸。上記の『住宅ローンプラットフォーム』を完成させるうえで最も重要なプロダクトである「いえーるダンドリ」というものがあります。これは住宅事業者の住宅ローンを一手に引き受けてるBPOサービスシステムです。これを国内に加速度的に広めてプラットフォームの価値を最大化させることにより、IPOを目指したいと思っています。IPO後は海外展開にもチャレンジしたいですね。
発展途上国では住宅ローンという金融インフラが整ってない国がまだまだあります。そこに住宅ローンという金融インフラを整えることによって、新しく市場ができていくことは社会貢献にもつながるためとてもワクワクします。

次に個人という軸。まずは私に課されたミッションである事業をドライブさせるための資金調達と長期成長戦略達成の鍵となるIPOを実現させることだと思っています。それだけではなく、ビジネス側をドライブさせていくことにも積極的に携わっていきたいと思っております。具体的には、事業シナジーのある地方銀行の開拓、大手不動産会社の開拓、その他ビジネスアライアンス関連にも注力していこうと考えています。
それから海外展開も経験したいと思っています。

海外には監査法人時代によく行っていましたが、国内ファンドにいる間に全部忘れてしまいました(笑)。海外ビジネスの経験は不足しているので、当社の海外展開に絡みながらゼヒチャレンジしたいと思っています。やりたいこと、やろうと思っていることはまだまだありますが語りつくせませんね!

―iYellのその先というもっと長期視点で早坂さんがチャレンジしたいことはありますか?
あります!
iYellでやり切って、次のCFOに譲る日がきたら、私は仲間内でファンドをつくりたいと思っています。そのファンドで資金だけでなく自身の経験や人脈も使って次世代のベンチャー企業を育てたるような仕事がしたいと思っています。そのためにもまずiYellを最強のベンチャー企業にします!!

若手会計士へのアドバイス              
―これまで早坂さんが経験されてきたことを踏まえて、キャリアについて若手会計士にアドバイスをお願いします
1つ目は、監査法人に残るか否かというのは早い段階で自分の意思で決めたほうがいいと思います。残るか否かを決めないないまま、ある程度の役職までにはつけたけどパートナーにはなれず、監査の仕事がつまらない・・なんて悩みを身近によく聞きます。パートナーを本気で目指すのか否かでまず分岐点があるかなと思います。パートナーを目指すのであれば、監査法人にしっかりと腰を据えて、アドバイザーとしてのスキルに磨きをかけていく必要があると思います。パートナーを目指さないという選択をしているのに、ただ残ってしまっているというキャリアは少しもったいないなと思います。

2つ目は「監査法人の外に出たら"数字"では絶対負けないから自信を持ってチャレンジしてほしい!」ということですね。
監査法人のように全員が数字に強い環境にいると自分が数字に強いのかどうか、自覚できる場面は少ないと思いますが、この強みはどこにに行っても絶対負けません。

ある事象が起きた時、利益がいくら出てこのビジネスは儲かる!というのが瞬時に頭にうかぶのは会計士の強みです。考えられる人は意外と少ないので、数字の強さは会計士のアドバンテージだと実感します。「監査法人の外にもっと活躍できる環境があるよ!」と声を大にして言いたいですね。

―貴重なお話、アドバイスありがとうございました!
今後のご活躍を心から祈っております!!

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Profile

早坂太一(はやさかたいち)
iYell株式会社 CFO兼上場準備室長
<経歴>
2007年に有限責任監査法人トーマツに入所。トータルサービス事業部にて株式公開支援、財務DD、会計監査、アドバイザリー業務等に従事。
2015年に株式会社地域経済活性化支援機構に入社しREVICキャピタル株式会社に出向。ヘルスケア産業向けファンドのGP業務に従事し、投資先4社の取締役及び1社の監査役を歴任。
2018年にiYell株式会社に財務経理部長として入社。CFO兼上場準備室長(現任)