『やりたい事』の見つけ方。多様な道を歩んできた会計士が語るキャリア選択

『やりたい事』の見つけ方。多様な道を歩んできた会計士が語るキャリア選択

日本公認会計士協会 JICPAリサーチラボ研究員 木村加奈子氏

現在、日本公認会計士協会JICPAリサーチラボ(以下リサーチラボ)の研究員としてご活躍の公認会計士 木村加奈子氏にお話を伺いました。これまで米国基準監査、企業研修企画・講師、国内監査、人事コンサルタント、リサーチラボ研究員と多様な社歴とご経験をお持ちの木村氏。常に自分の中の違和感と向き合って決断することを大切にしてこられた価値観やそれぞれの転機で決断してきた背景も語って頂きました。「やりたいことがない」そのように思われている方にとって、考え方のヒントになるのではないでしょうか。あまり知られていない会計士協会で取り組まれているミッションについてもお聞きしました。

監査法人でのキャリア転機。マネジメントの大切さ
私が会計士を目指したのは、年齢を重ねても経済的に独立のできる仕事をしたいという考えからでした。かねてから体系的に勉強をしてみたい、会計士は希少価値の高い資格であると考えたこともあり、失恋を機に資格取得を目指すことを決意。新卒で入社した出版社を辞めて2年間勉強して資格を取得し、新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人、以下新日本)に入所しました。
勉強に専念していた期間は、社会に根付いていない焦燥感が常にあったので、入所当初は働けるだけでありがたいと感じながら仕事に取り組んでいました。
新日本ではMNC(Multi National Client)部で上場企業の監査チームへ配属になりました。米国基準の監査業務が中心でしたが、米国基準が厳しく、ひとつの売上取引について日付をまたいで議論することもあるなど、クライアントとの関係は当時かなりシビアでした。
21時に退社できると「こんなに早く帰ってもいいのかな?」と感じるほどハードな日々が2年程続き、体力的にも精神的にも違和感や苦しさがありました。そこで、組織の中で人をモチベートして育てながら働くマネジメントの大切さを痛感し、人や組織にフォーカスした仕事がしたいと次第に考えるようになりました。その中で出会ったのが株式会社グロービス(以下グロービス)でした。

転職から再び監査法人へ戻るという選択肢
グロービスへの転職は、当時の部門長がグロービスにパートナー向け研修を発注していて、内容を面白いと感じたことがひとつのきっかけでした。グロービスでは、クライアント企業の次世代リーダー育成等のニーズに合わせた研修を企画していました。各企業で選ばれた幹部候補生の優秀な方々の振る舞いや受け答えを見ているのはとても楽しかったのですが、研修講師が「あなたの使命はなんですか?」と受講生に問いかけるのを聞き続けていた結果、「私の使命は、根本はどこだろう?」と深く考えるに至りました。アテンドが研修に影響されてしまったわけです(笑)
考える中で浮かんだのは会計士資格のことでした。会計士というものがすごく自分のルーツになっていることに気づいたんです。今の自分には会計士としてこれだけやってきましたと自信を持って言えるものがない、一度逃げてしまったけれど会計士の王道である監査の仕事に戻って自信をつけたいと思いました。監査法人時代の知人をたどり、ありがたいことにタイミングよく人を探している部署があるということで、新日本に戻ることになりました。

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働く女性として感じた壁、そこからの覚醒
以前の所属とは異なる国内監査部に配属になりました。ここで監査の王道を体験した上で、今後の方向性を決めようと思いました。国内監査部では、希望していた上場企業子会社の主査をインチャージでやらせてもらうなど監査人としてはとても充実しており、ありがたいことに今年頑張ればマネージャーに昇格という話を頂きました。
しかし、私がそのタイミングで第一子を授かり産休に入る事がわかったことで風向きが変わり、昇格の話は立ち消えになってしまいした。
現在はもうそういったことはないと思いますが、当時は育児中の女性が公平に評価されながら働き続ける環境がそれほど整っていませんでした。育休が明けてからは同じくらいの年次の男性と比べて評価につながりにくい仕事を任されている感覚があり、将来への閉塞感がありました。今思えば「もっとこうしたい」という意見を自ら発信するべきでしたが、育児中に遅い時間まで働く日々になってしまうのも怖く、保守的になりすぎていたなと反省もしています。
『覚醒』したと思える程、私の考えが変わったのは、第二子出産後の育休中でした。二人の子供を預けてまで働くのであれば、プロとしての覚悟を持ち自分が心からやりたいと思える仕事を絶対にやると決めました。家族の年齢を照らし合わせて未来設計を考えると、やりたいことをやれるときにやらないと自分の時間がないことにも気づきました。監査法人に戻って、また1年のブランク明けで昇格まで数年といったキャリアは違うと思い、上司から出向先のリストを貰って色々と検討しました。その中にEY税理士法人で"人事コンサルタント"のポジションがあるのを見つけて、ここだ!と思いました。いてもたってもいられず、本来のルートを飛ばして税理士法人に直接連絡して採用の話まで取り付けました。当然上司からはとても怒られてしまいましたが、育休明けに無事出向できることになりました。

「会計士の価値を証明したい」
EY税理士法人では人数が少なかったこともあり、研修の企画から講師、営業まで一貫して業務に携わることができました。会社の組織再編もあり出向任期満了で監査法人に戻ることになりましたが、コンサルティングをやっていきたい私の考えと監査法人のキャリアアップの考えがマッチせず、監査法人には戻る場所がないなと感じました。
もう少し人事コンサルタントをやりたい思いが強くあり、ご縁もあって、エーオンヒューイットジャパン株式会社に転職しました。EY税理士法人と同じように少数でしたので、より広範囲の仕事に携わることができましたし、様々な企業を担当することができ、人事コンサルタントの仕事をより深く経験することができました。
当時の同僚などから、「会計士は規制産業の監査をやっていればいいから楽だよね」と言われたことがありました。コンサルティングというビジネスをしている人たちにそう思われがちであることは以前より感じていたので、そうではないことをどこかで証明したいなと考えました。独立開業と監査法人の非常勤勤務の組合せなど様々な選択肢を考えている時、現在私が勤めるリサーチラボに監査法人時代の同僚が在籍していることをふと思い出しました。思い立って久しぶりに協会のサイトを見てみたら、締切3日前のタイミングで求人を見つけ、現在に至ります。

会計士協会がしていること、できること
リサーチラボが何をやっているところか、会計士でもご存じない方が大半なんじゃないかと思います。リサーチラボは監査や会計の過去未来、世の中の動き、グローバルな視点からの比較分析や情報整備をする目的で発足されました。ちょうど私が入ったタイミングで組織内会計士の能力開発について整理してこれからの在り方を考えようというプロジェクトが発足しました。会計士業界は変化が激しい業界ですが、世の中の流れに流されていくのではなく、"会計士はこうありたい"というのをしっかりと示した上でその時々に合わせた発信をしていきたいと考えています。かなり壮大ですが、任期のうちに形にしたいです。私は常勤ですが、開業と協会の仕事を両立している会計士もいます。そういった多様な勤務形態も含め、まだまだ認知不足、発信不足だと感じます。それは会計士協会全体にも言えることで、補習所や資格登録では世話になるけどそれ以外は何をやっているの?と皆さん思われているんじゃないでしょうか。協会では実務指針の作成なども行っていて、それがやりたくて監査法人から転職してきた会計士もいます。日本の指針を作るのは協会でしかできないことなので、そういった夢がある方がいればぜひ来てほしいですね。
働く場としてだけではなく、会計士を集めて何かやりたい時などもぜひ協会を利用してほしいです。もっと活用してもらえれば協会ももっと変わっていけますし、いろんな情報や人が集まって会計士全体の価値向上につながると信じています。

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どんなことも「失敗」ではなく「良い経験」にする
もし監査法人の外に出ることを躊躇している方がいるのであれば、会計士という資格を持っているのだから外に出てダメだったらまた監査法人に戻るなり、別のチャレンジをすればいい。それぐらいの心意気で前のめりでトライしてほしいです。気になる会社や独立に憧れる気持ちがあるのに躊躇っているのはもったいないことです。若いうちはどんな経験も肥やしになりますし、何かうまくいかないことがあったとしてもそれは決して「失敗」ではなく、「経験」になると思うんです。私もそうだったように早く辞めたり監査法人に出戻ることがあったとしても、自分の思いに対して素直で忠実にやった結果であれば何も恥ずかしいことはないですから。監査法人しか知らないがゆえに外の世界に不安を感じることがあったとしても、その不安は出ない理由にはなりません。やってみて、何か指摘をされたら直せばいい。監査法人しか知らないので色々教えてくださいと言えばいいんです。私が上司なら、可愛いヤツだなと思います(笑)
外に出る前の備えとして監査法人にいる間にぜひやってほしいと思うのは、自分の知的ネットワークを広げることです。例えば自分が監査だけしているのであればアドバイザリーをやっている同期や先輩との繋がりを持ち、いざと言う時に誰に何を聞くべきかを把握しておくことはどこに出ても必要な社会人スキルです。監査法人で築いたネットワークは外に出てからも価値が発揮されますし、チャンスが入ってきやすくなると感じています。

過去様々な決断に際して、私は自分の中の違和感に対して気づくことを大事にしてきました。違和感をやり過ごして環境に適応していく、それはそれでとても重要なことですが、違和感から自分らしさや自分が本当に大事にしたいものとのすれ違いが見えてくることもあると思います。自分がチャレンジしたいこと、やりたいことは何か?その答えにできるだけ素直な選択をしてほしいと思っています。


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Profile
木村加奈子(きむらかなこ)
東京大学教育学部卒業
1999年 第一法規出版株式会社(現・第一法規株式会社)
2003年 会計士資格取得
2003年 新日本監査法人 MNC(Multi National Client)部
2008年 株式会社グロービス
2009年 新日本有限責任監査法人 国内監査部
2015年 EY税理士法人へ出向
2017年 エーオンヒューイットジャパン株式会社
2018年 日本公認会計士協会 JICPAリサーチラボ(現職)