会計士がファンド・事業会社に転職して成功する秘訣 会計士という保険があるからこその積極的なチャレンジ

会計士がファンド・事業会社に転職して成功する秘訣 会計士という保険があるからこその積極的なチャレンジ

株式会社トリドールホールディングス 小林寛之氏(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)を卒業後、プライベート・エクイティ・ファンド(以下ファンド)を経て、株式会社トリドールホールディングス(以下トリドール)に入社。現在は取締役 経営企画室長としてトリドールの経営戦略の一翼を担っている。
「会計士という絶対的な保険があるからこそ積極的にチャレンジできた」とこれまでのキャリアを振り返る同氏。『5000憶円規模の会社をつくる』という更なる目標にむかって全速力で走っている。
そんな小林氏も監査法人時代に描いていたキャリアは、意外にも「なんとなく上にあがっていくのかな」という漠然としたものだった。一体どのようにして現在のキャリアにたどり着いたのか、ファンドへの転職や事業会社への転職を考えている会計士の方にとっては多くの気づきと勇気を得られるようなお話を伺えました。

監査法人からファンドにチャレンジした理由
―まず、会計士を目指された理由をお聞かせください。
同志社大学の3年生の時に、香港に1年間留学していました。
香港の学生、アメリカからの留学生は非常に優秀なうえに勉強熱心で、彼らと一緒にビジネスの世界で活躍していくためには、何か武器が必要だという危機感を持ちました。
その危機感がきっかけで、まずは会計というグローバルで通用するスキルを身に着けようと考え、大学院に進学すると同時に会計士の勉強を始めました。

私は大学院に通いながら会計士の勉強ができたことは非常によかったと思っています。
大学院では、会計士試験に合格するスキルだけではなく、根本的な考え方や理論の背景を勉強する機会があり、会計士になってからも、その学びが役立っていると感じています。

―監査法人に勤務されていた当時はどのようなキャリアを考えていましたか?
正直なところ、全く何も考えていませんでした(笑)
トーマツの中で順当に上がっていくのだろうなぁくらいに思っていましたね。
シニアスタッフになってマネージャーになってというイメージしかありませんでしたね。

―それでは、どのようなきっかけがあり転職を考えたのでしょうか?
監査業界全体で、クライアントとの距離をおく傾向が強くなっていましたが、私はもっとクライアントに入り込んで、企業成長を手伝っていく仕事をしたいと思っていました。監査業務の社会的意義や重要性は理解していましたが、やりたい方向性が監査人の独立性とは真逆で、矛盾を感じ転職を考えました。

―ファンドに転職された決め手は?
転職活動を始めた当初はコンサルティング会社、証券会社も見ていましたが、色々な人の話を聞いて、『投資』という業務も非常に面白いと興味を持ちました。
これまで学んできたファイナンス理論や会計を土台にして、経営の知識を新しく学べる機会があると考えてファンドへの転職を決めました。

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会計士がファンド、事業会社に転職して成功する秘訣とは    
―監査法人からファンドにご転職されて、最初はどのような業務に携わっていらっしゃったのでしょうか?
アソシエイトとして入社し、最初は上司の下でファンドの基礎的な業務に携わっていました。投資検討のために、様々な情報を集めて仮の事業計画を作成し、それをベースに株式をバリュエーションして想定リターンが出るかどうかを計算していく業務で、ひたすら何十社とやりました。

―監査法人とファンドでの働き方の違いはどこでしょうか?
ファンドでは自分で業務全てを設計し、動いていく必要がありました。
大変な面ももちろんありますが、私はファンドでの働き方は楽しかったと思います。
投資先が見つかるまでは、ひたすら提案活動が続きますが、投資候補先が出てきたらデューデリジェンスのプロセス、投資が完了したらPMIとイベントオリエンテッドで、そこにマニュアルはなく、やならければならないこと、やった方が良いこと全てを自分で決めて動きます。
監査法人では、年間でやることが決まっていて、ルーティンを着実にやっていくという働き方でしたので、働き方の性質の違いは感じました。

―ファンドでのやりがいは何でしたか?
やりがいが強かったのはPMI、やはり投資後にバリューアップさせていく過程ですね。
投資先の企業と一緒に課題を解決していく、企業の中に入り込んで、一緒に企業成長のお手伝いをしていく仕事でしたので、まさに私が転職してやりたかった仕事ですよね。

PMIまで携わった案件はエグジットまで携わることができました。
創業家者バイアウトで一旦ファンドが持った上で最終的には事業会社への売却となり、結果的には良かったと思います。

―ファンドで苦労されたことも教えてください。
リーマンショック後は本当に苦労しました。
投資先企業の業績立て直しに尽力しながらも、新規の提案活動をしていましたが、リーマンショック後は、結局新規の投資はできませんでした。
ただ、そのとき苦労したからこそ、様々な方に話を伺い自身で考えを深めることができました。今までのキャリアや今後のキャリアについて考えるにあたって、示唆に富んだ機会を頂いたと思います。

―ファンドから事業会社へ転職をお考えになられた背景を教えてください。
ファンドに入社する時、いつか事業会社に転職しようということを考えていたわけではありませんでした。
事業会社への転職を考え始めたのは、ファンドで働き始めて5年目の頃だったと思います。
ファンドの投資期間は3年~5年、時には投資先企業の将来的な利益よりも短期的な利益を追わなければいけない時があります。
極端な例として、人材への投資ですが、新卒で優秀な人材を採用しないと会社に長期的な将来はありません。でも新卒採用には費用もかかるし、新卒の成長は5年とか10年かかります。
ファンドとしてリターンを追うことと、5年後10年後に企業の成長に必要な投資を実施していくことの矛盾を抱える状況もありました。そういったことの積み重ねから少しずつ違和感を持ち始めていました。

その中で、真の意味での経営改革や企業成長を担っていくためには、事業会社に長期的にコミットして、一緒にやっていくべきではないかと考えて、事業会社への転職を決意しました。

―事業会社を探されるなかで、トリドールとの出会いを教えてください
トリドールとは、たまたま知人に相談したことがきっかけです。
プロフェッショナルファームよりは事業会社の経営企画や社長室等のポジションで会社全体の戦略に関われるポジションを探していると話したところ、その知人からトリドールの粟田社長をご紹介頂きお会いしました。

2013年の入社当時のトリドールは、一部上場を果たしてから5年経ち時価総額も600億円を超えるくらいになっていました。トリドールには、経営企画室を新しく作りたいという意向があり、人材を探していたようですが、なかなかご縁が無かったようで、そこに私が渡りに船でぽっと入った感じですね(笑)

30代で一部上場企業の取締役になるキャリアステップ
―トリドールに入社をした決め手は何だったのでしょうか?
やはり粟田社長の魅力ですね。
私は働くうえで何をするかも大事ですが、誰と働くかが非常に重要だと考えています。
粟田社長と初めてお会いした時、掲げる志と目標が非常に高く、当時アメリカや中国などへの出店を成し遂げ、更にグローバル展開していきたいという、グローバル視点でのお話を伺いました。
既にグローバルで戦っている日本のトップティア企業はありますが、これからグローバルに挑戦していこうという気概があって、しかもそれを真面目に考え実行に移している社長はそんなにいらっしゃらなかったので、非常に刺激を受けました。
『粟田社長と一緒に仕事をすることが自分の成長にもつながる』そう思い入社を決めました。

―入社時に社長から依頼された具体的なミッションはあったのでしょうか?
そんなに具体的にこの業務をしてくれというお話はなかったですね。
経営企画室として『こういうことをやったほうがいいのではないか』ということを考え実行しました。この動き方はファンドでの働き方が活かされていると思います。

『現状のトリドールが成長に向かって課題にしていることは何なのか?』

各部門のトップに話を聞いたり、現場に足を運んだりして、私なりに仮説を立て、それに対して打ち手を考え、提案し実行してきました。

―例えば、入社後に、これは課題だなと考え取り組んだことはどのようなことでしょうか?
当時は、年間の出店が100店舗以上、新店が3日に1店舗オープンしているような時期が数年続いていました。その結果、既存店の売上が前年比割れする事態も少しずつ起き始めていました。

原因を検討していくと、ストアカニバリゼーションといって店舗同士が売上を食い合ってしまう状況が確認されましたので、エリア分析をして解消しました。
あとはスクラップアンドビルドでいくつかの不採算店を一定期間で評価し、立て直しするのか退店するのかということを定期的にモニタリングしました。
仕組みは元々あったので、その仕組みがしっかり回るように工夫をしていきました。

―事業会社・トリドールで小林様がやりがいに感じている事は何でしょうか?
大きく2つあります。
1つは非常に幅広い領域のことを担わせて頂ける事です。
戦略に関しては、単に数字だけではなく営業、人事、さらには組織全体に及ぶところまで広範な領域をカバーしています。
また、トップレベルの意思決定だけではなく、現場近いところまで行って、課長、一般従業員と一緒に仕事ができるコミュニケーションの幅の広さも面白いと感じています。

2つ目はスピード感です。
例えば、経営企画で課題を分析し提案した事が、実行に移される迄に時間を要する組織もあると思います。
当社の場合はファクトを持って課題を提案すると、翌日、翌朝、むしろその日から粟田社長から担当部署、全社に号令がかかり、そこに向かって経営が動いていきます。
このスピード感とダイナミズムを体感できるというのは非常にやりがいを感じます。

あともう1つありました!
飲食業ということもあり、お客様の反応を非常に近くに感じられます。
これまで監査法人、PEファンドでは、クライアントからは、喜ばれるというよりは渋い顔をされることも多かったのですが、現職ではお客様の「食べておいしかった」とか「こんなサービスが嬉しかった」というのを、ダイレクトに感じる環境が嬉しいですね

―まさにサクセスストーリーですね!成功の秘訣はなんでしょうか?
全く成功なんていうレベルではありませんが、
現在に至るまでには色々な試行錯誤や迷いがありました・・・・・。
後から考えると色々理屈はつけられますけど、瞬間瞬間の判断で決めていっていると思います。実際にやるときは、実はあまり考えていなかったかもしれませんね(笑)

秘訣というわけではありませんが、『迷っても飛び込んでみる』という考えが出会いとチャンスを広げてくれたと感じています。
幸運なことに、飛び込んだ先で良い方との出会いや助けがあったからこそです。
人との出会いや周囲からの手助けが無かったら、今の自分のキャリアも無いと思います。
自分だけでやってきたと思っていないし、自分に能力があってやってきたとも思っていません。本当にめぐり合わせだと感じています。

―『迷っても飛び込んでみる』のは勇気がいるしパワーもかかる事だと思いますが、キャリアの意思決定における判断軸はありますか?
全然ないですよ(笑)
ただ、会計士ほど潰しのきく資格はないし、食いっぱぐれない確信があります。
会計士という絶対的な保険を持っているのだったら、挑戦すればいいと思いますね。
私も会計士の資格があったからこそチャレンジできているところはあると思います。

―小林さんが今後のチャレンジしていきたい事を教えてください
『5,000億円規模の会社をつくっていく』ことですね。
投資ファンドでは、売上高でいうと100億円、200憶円規模の会社がメインでした。
トリドール入社時は、売上800億円くらいだったと思いますが、現在1,000億円を越えてきて、これを売上高3,000億円、5,000億円にしていく。
既に3000憶円、5000億円の企業に勤める機会はあると思いますが、その規模の企業を創っていく機会はあまりないし、会社の成長とそれを支える組織、インフラを作っていくところは私自身もこれまでに経験のない大きなチャレンジだと思っています。

定年退職した後で、みんなが知っているあの会社のこの時代に関わっていたのは自分だよと笑って言えるといいなと思いますね。
今でこそトリドールはライフスタイルカンパニーだけど、当時はうどん屋だったんだよって(笑)

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今後のキャリアを試行錯誤する若手会計士への応援メッセージ  
―監査法人での経験を振り返ってみて身についたスキルや考え方の特徴はありますか?
会計知識が飛躍的に伸びるのはもちろんですが、一番はプロフェッショナリズムですかね。
先輩からも常に指導頂いたポイントだと思います。
大学出たての若造が、その道20年、30年の経理のプロに意見するのだから、プロフェッショナリズムがないと相手は聞いてくれない。
自分がプロフェッショナルだということを意識していました。

―次のキャリアを考えている若手会計士の方々に向けてぜひアドバイスをください
私も転職する時よく分からなかったので色々な人に会って意見を聞くのがいいのかなと思います。

私も転職活動したので感じるところですが、学生合格の会計士は少し特殊ですよね。
企業研究や自己分析等の就職活動したことがなく、ある意味監査法人以外は知らない。
外部の人に会ったり情報に触れたりして、世の中にどういう仕事があるのかを知ると、自分に合った仕事や、更に興味の持てる仕事が絶対出てくると思います。
その、きっかけになるのがこの会計士UPかもしれませんね(笑)。
―ありがとうございます(笑)

私も明確にやりたいことがあったわけではなく、色々な人にアドバイスを頂いたおかげだと思っています。
ただなんとなく、そのままズルズル流れていってしまうよりは、色々なところを見た方がいいのかなと。
色々な人と会って、飲むだけでもいいじゃないですか。
「起業に興味あるんだけど、よく分からないので、ちょっと話聞かせてください」ていったら、それでいいじゃないですか。
その結果、独立・転職しないで監査法人で働くという選択をすることもありだと思います。せっかく会計士の資格をとったのだから、現状に流されるだけではなく、主体的にどんどんチャレンジしていけば良いと本当に思いますね。

―本日は貴重なお時間ありがとうございました。


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Profile
1978年 群馬県出身
同志社大学商学部卒業
同志社大学大学院商学研究科商学専攻博士課程(前期課程)修了
監査法人トーマツ
国内大手証券系プライベート・エクティ・ファンド
株式会社トリドールホールディングス 取締役 経営企画室長



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