会計士がベンチャーCFOとしてIPOを果たす役割と覚悟

会計士がベンチャーCFOとしてIPOを果たす役割と覚悟

株式会社Amazia 取締役CFO 神津光良氏

2018年12月に東証マザーズに上場を果たした株式会社Amazia。この上場を牽引した公認会計士 神津光良氏にお話を伺いました。「2年で上場できなければ辞めます」そう言い切って参画したが、参画直後みるみるうちに業績が下がっていく。覚悟はしていたがIPOはそんなに甘くない。取締役CFOとして上場を実現してきたドラマのような裏舞台、そしてコンサル志望からなぜベンチャー企業のCFOという選択をしたのか、後輩会計士に向けてのキャリアアドバイスも伺いました。

コンサルを目指し会計士に             
―会計士を目指したきっかけを教えてください
高校2年生の時に会計士を目指そうと思っていました。私の父親が都税の主税局、叔父が会計士でしたので、税務や会計に馴染みある家庭環境でした。叔父は会計士でありながらコンサルタントとして独立しており、「会計士からはコンサルタントになりやすいよ」という話を聞いて、私も将来コンサルタントになりたいと思い会計士を目指しました。
会計士だと大企業の施策や数字を見ることができます。「なぜ伸びたのか?何が悪かったのか?」見聞し分析することができます。その情報やノウハウを蓄積してコンサルタントとして活用したいなと考えていました。

―有限責任監査法人トーマツを選んだ理由はありますか?
最初は大手企業を担当できる部署で働きたいと思っていました。
しかし仲の良い先輩が有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)のトータルサービス部(以下TS)に所属していて「大手を担当する部署にいってたら、全部の数字を見られるようになるまでに何年もかかる。IPOを目指している比較的小規模な企業を担当すれば1~2年で一通り全部見ることができる。小規模な企業は速いスピードで色々な施策をやっているから楽しいぞ!」と諭され、トーマツのTSに入りました(笑)

―監査法人では主にどのような経験をされてきましたか?
トーマツのTSでは監査も経験しましたが、IPO支援にも携わり、自分が担当したクライアント3社がIPOを果たし上場することができました。3年で一通り経験することができたこともあり、TS部内のFASチームに希望を出して移動しました。 FAS異動の半年後に野村證券へ1年半ほど出向して帰任後は、監査をやりながら様々なアドバイザリー案件に携わっていました。


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コンサル志向からベンチャーCFOに。そのきっかけとは? 
―野村證券株式会社(以下野村證券)に出向に行かれていた時のご経験も教えてください。
野村證券ではM&Aや事業承継に携わりました。IPOに向けたMBOも携わることができました。ちょうど政権交代し株価が回復しはじめたタイミングでしたので、リーマンショック後に株価が暴落してIPOをやめたけど、このタイミングで再チャレンジしようという会社が結構ありました。キャッシュが潤沢で、市場から資金調達をする必要はあまりないけれども"IPOするのが夢"というクライアントもいました。その場合は一度MBOして現経営陣の人たちに、資金を配分して軽くなった状態でIPOしましょうという提案をしていました。

―帰任されてから転職されるまでのご経験と志向の変化について教えてください。 
帰任後は監査案件を1件担当しながら、とある大手企業のIPOコンサルのプロジェクトで、IRコンサルを担当しました。上場後に開示していく数字を検討するのがミッションで、クライアント先に常駐しながら働きました。
その後も、製造業で原価計算制度を策定するコンサルや、委員会設置のコンサル等、様々なプロジェクトを経験することができました。

もともとは"コンサルタントになりたい"という思いで会計士になり、様々な業務に携わってきましたが、とある大手企業の案件を担当したことがきっかけで考えが変わりました(笑)
当時の私の働き方は、深夜12時頃から打ち合わせが始まり1時くらいに終わり「明日の朝までに提案資料にまとめといてください」という感じで解散になり、3時頃までに資料を作成してメールで送り帰宅するという働き方でした。
コンサルタントはすごく考えて検討してからクライアントに提案します。しかしクライアントの考えや気分次第で流れがガラッと変わったりします。
"考える仕事"はやりがいがあり好きでしたが、この働き方を今後も続けるのはしんどいと思うと同時に、事業会社の意思決定する側で、"考える仕事"を同じようにできたら楽しそうだと考えるようになりました。

2年でIPOできなかったら辞めます!?         
―Amaziaとの出会い、参画を決意した背景を教えてください。 
ベンチャー企業の経営企画のポジションに転職していた同期から「Amaziaというベンチャー企業の代表がCFOを探しているから会ってみないか」という話を貰ったのがAmaziaとの出会いです。代表はJAFCO出身で数字にも強く、今後の事業展開やリスク等、投資家目線でも話ができ、色々意見を聞きながらやっていきたいという代表でしたので、共通言語、共通認識もあり、自分からも色々提案しチャレンジできる環境だと感じました。

代表から「漫画事業は今IPOさせるしかない。2年以内に上場できなければ、事業自体を見直す。」という話を聞いて、私もそのとおりだと思いました。2年以内に上場できていない場合は、事業を根本的に変えなくてはいけない事態であり、そのような状況下において、上場準備を継続することは足かせにしかならない。そして監査法人で、何度も延期して疲弊している組織も見ていました。そこで私からは「2年以内に上場できなければ私はいないほうがいい。人数を絞って組織を小さくして新しい事業展開したほうがいいですね」と伝え、2年以内にIPOすることができたら次のミッションに向かう、2年以内にIPOできなければ進退を考えようということになりました。

―監査法人から事業会社のCFOとして移ることに決めた当時、感じた不安と期待を教えてください。 
事業会社での経験が全くない状態で取締役CFOポジションでジョインすることにはやはり不安はありました(笑)
どこまで自分が知らなくてはいけないのか?どこまでが責任の範囲なのか?
コンサル業務に携わっていた時も"会計士"というと税務、会社法、金商法、なんでも知っていて当然だと思われて周囲からは質問を受けますが、実際には全くわからないことも多い。でも、期待に応えたい、間違えられないというプレッシャーの中で勉強しながら業務に携わってきました。また同じようなプレッシャーを感じることになるかもしれないというのが不安でしたね。
不安が反面、様々なことにチャレンジできるという期待も持っていました。これまでとは違い、考えたことを意思決定までできるのが楽しそうだと思っていました。

―漫画アプリ、電子書籍業界として考えると競合ひしめくレッドオーシャンという印象を持ってしまうのですが、Amazia(マンガBANG!)の強みは何でしょうか? 
まず、当社の主力サービス「マンガBANG!」は電子書籍とは大きく異なります。電子書籍は、マンガを購入したい人が利用するコマースサイトですが、「マンガBANG!」は、暇な時間に気軽に、暇をつぶすために利用してもらうサービスになります。基本無料で利用できるフリーミアムモデルであるため、顧客ターゲット層はマンガ好きだけでなく、マンガに関心がある人は全員ターゲットに広がります。特に、電車の中など暇な時間に利用していますので、関心のある広告がマンガBANG!で配信された場合は、当該サービスに移りやすく、メディアとしての広告価値が高いです。
マンガの場合、ゲームなどに比べ可処分時間は10~15分程度と短く、他社サービスとの併用も可能となります。また、無料アイテムが回復すると、ユーザーは戻って来てくれるため、他社サービスの広告を出すことも問題がありません。
当社ユーザーの広告遷移の内容等を分析し、ユーザー関心が高い新規事業を展開した場合にも、現在のユーザー基盤を誘導できると考えています。

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CFOのピンチとチャンス               
―CFO就任後、実際大変でしたか? 
大変は大変でした。でも何とかなるんだなとも思いました(笑)
一番大変だったのは業績です。私が就任した9月をピークに毎月売り上げが下がっていきました。8月から流行していた、雑誌の発売日に全部の漫画が無料で読める「漫画村」という違法サイトが要因でした。出版会社各社も動いていましたがなかなか運営元が見つからず、しばらく閉鎖されませんでした。この時、ちょうど証券会社の審査に入るところで、業績予想を下方修正しましたが、修正したものよりも更に下がっていった時は『このまま続いたらIPOどころではない!これはやばい』と思いました。

翌4月に政府がサイトブロッキングし、その違法サイトの影響はなくなり、業績も回復していきました。業績回復後も証券会社からは「違法サイトが閉じて業績が急に伸びているのは一過性で、今後の業績予想は大丈夫ですか?」と突っ込まれました(笑)

業績に関しては証券会社がOKを出したら、東証もだいたい大丈夫と聞いていたのですが、実際は証券会社の審査以上に東証の審査が厳しく大変でした。業績予想に関しては必ずしも当たる予想ではなくてちゃんと投資家が自分で判断できるような情報をしっかり出して欲しいと言われました。例えば「為替は1ドル100円の前提で作っていますが110円になったら営業利益にこのくらい影響があります」という情報を出してくれれば、投資家も為替の状況を見ながら想像ができるので、別に為替の影響で修正したことに関してはネガティブではない」と言われました。おそらくはネガティブには受け取られるでしょうけど(笑)

―今後、会社が目指す方向性と神津さんが個人的にチャレンジしていきたいことを教えてください 
当社はもともと漫画アプリ一本でやっていくという会社ではなく、DeeNAさんのようなインターネットサービスの会社を目指しています。
代表は「日本企業は営業や社長がメインで、エンジニアが下請けのような会社がまだまだある。今後インターネットサービスがメインになっていく世の中では、エンジニアが脚光を浴び、将来なりたい職業としても上位ランキングに上がってくる社会にならいないと、日本が世界に対して競争力がなくなってしまう。そう思い、エンジニアが主体的にサービスを創る会社」を創りたいと思い「世界にチャレンジするインターネットサービスを創る」を経営理念に掲げていますので、そこは一緒にやっていきたいと思っています。

私としては、売上20億の事業が5個ある会社と売上100憶の事業が1個ある会社では、売上100億の事業が1個ある会社のほうが強いと思っているので、まず漫画アプリ事業で売上100憶円の規模に早く成長させていきたいですね。その上で、マンガアプリ事業の利益の一部から新規事業に投資していきたいと思っています。

若手会計士へのキャリアアドバイス               
―後輩会計士の方へのアドバイスをお願いします 
後輩にキャリアの相談をされることは結構多いと思います。
私が監査法人で働いていた時にも思っていたことですが、監査の仕事に飽きてしまった等の現状に対する不満が続くくらいなら、出向でも転職でもいいので1回外に出たほうがいいと伝えています。私も野村證券に出向に行ったり部署異動したりして実感しましたが、隣の芝生は青く見えるものです(笑)どこに行っても大変なことはあります(笑)

特に監査法人で監査だけという会計士は、出向か転職をしたほうがいいと思います。今は転職しやすい時代なので、チャンスと捉えて転職に対して前向きでいいと思います。実際チャレンジしてみないとわからないことが多いですし、チャレンジしてみて失敗したとしても失うものはありません。私もトーマツを退職する時に「残っていればパートナーになれたかもしれないのにもったいない」という話をされました。しかし、外に出て戻ってからでもパートナーになれないわけではないし、もったいないという理由がよくわからないと思いました。チャレンジしてうまくいかない可能性はありますが、それでも2年だけ、しかもその2年が無駄になるわけではなく、成長の機会でもあり強みを身に着ける期間にもなるのでもったいないとも思いません。

もう1つアドバイスしているのは監査法人での同期やその前後の先輩後輩は大事にしなさいと伝えています。同じようなタイミングで退職し、会計士が活躍できる業界やポジションに転職することが多いと思います。同じような問題・課題で悩んだりするので、相談や情報交換ができる関係はとても大切だと思います。私もエボラブルアジア社のCFO柴田さんにはすごく助けてもらいました(笑)

―IPOの裏舞台はまさにドラマでした!神津さんの仕事に対するスタンスやキャリアアドバイスも多くの若手会計士が勇気をもらえると思います。ありがとうございました。 

kouzumituyoshi_profPNG.pngProfile
神津光良(こうづみつよし)
株式会社Amazia 取締役CFO
<経歴>
2008年に監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所後、会計監査、IPO支援業務、FAS業務等に従事。2013年に野村證券に出向し、M&Aや資本政策、IPO支援等に従事(2014年帰任)。2017年に取締役CFOとして株式会社Amaziaに参画。2018年12月東京証券取引所マザーズへの上場を果たす。



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