アドバイザリーとプレイヤーの差。会計士に必要な視点とは?

アドバイザリーとプレイヤーの差。会計士に必要な視点とは?

株式会社イーエムネットジャパン 取締役CFO 村井仁氏

現在、株式会社イーエムネットジャパンの取締役CFO としてご活躍の村井仁氏にお話を伺いました。村井氏は有限責任監査法人トーマツでIPO支援、法定監査、M&Aアドバイザリー業務を経験され、PEファンドでM&Aを経験、現職のイーエムネットジャパンでは取締役CFOとしてIPOも果たした。これまでのキャリアを振り返る中でアドバイザリー側と意思決定側(プレイヤー側)の両方を経験したことで、求められる経験・スキルの違いもリアルに実感されたという。
意思決定する側にチャレンジしたいと考えている会計士の方や、監査法人の外のリアルな違い知りたい会計士の方には参考にしていただける点も多いのではないでしょうか。

監査法人でのキャリアの転機(PEファンド出向)
私は新卒でコンサルティング会社に入社し、5年ほど勤務した後に一部上場の事業会社で管理会計の仕事に携わりながら会計士試験の勉強をしていました。当時有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)で働いていた友人からトーマツへ来ないかと誘いがあり、「まだ合格していないけど採用してくれるなら」と誘いを受け、2006年にトーマツのトータルサービス部に入りました。とは言え、当時はまだ資格を持たず監査法人へ入るケースは非常に稀だったので、事務所側は扱いに困ることも少なくはなかったと思いますが、半年後に無事合格しました。やる気があるなら採用しよう!と言ってくれた当時の部門長の懐の深さに感謝しています。

トーマツではまずIPOを目指す企業の監査や上場企業の法定監査に携わりながら、次第にM&A関連の業務にシフトしていきました。当時の上司だったパートナーがIPOや法定監査のみならず、M&Aにも専門性を持っている方だったこともあり、新人の当時から様々な領域の業務経験を積ませてもらい、またPEファンドへ出向し、ファンドマネージャーという貴重な経験をさせてもらいました。意思決定側でM&Aを経験したことで、監査法人での業務経験はM&Aのごく一部の領域であったことを痛感しました。監査法人目線だけではわからなかったことですが、ゼロからM&Aを成し遂げるには想像以上に多くの課題を解決し、手続を進めていく必要があり、解決のために関わる人間も想像以上に多いことがわかりました。この経験で、クライアントが監査法人に求めていることが何か、ニーズを体感できたのは、その後の業務に活かす意味でも非常に良かったと思います。何よりも意思決定する側を経験し得られたやりがいは、現職で取締役CFOとしてIPOを目指す原点になったと言えるかもしれません。

ベンチャー企業のCFOにチャレンジした理由
監査法人から転職を考えるきっかけとなったのは、とある総合商社からのお誘いでした。今後キャリアについて考えていたタイミングでしたし、経理やリスクマネジメントではなくフロント業務のいわゆる"商社マン"としてのお誘いだったので、「これはいいチャンスだ!」と思いました。社会人経験を経て会計士資格を取りトーマツに入所した私はいわゆるオールドルーキーだったので、合格年次である程度判断される監査法人の世界では、将来パートナーになるにも苦労するだろうと考えていました。会計士資格を持ちながらも、監査法人でサラリーマンとして働き続けることに疑問を感じていた私は『この機会に外の世界に挑戦しよう!』と決心しました。
この"転職の決心"を入所以来の私の師匠でありボスのパートナーに相談してみたところ、「村井は商社の様な大企業のサラリーマンは向いてないだろう、ベンチャーのCFOがいいんじゃないか?」と言われてしまい、自分でも非常に納得したのをよく覚えています。サラリーマンから、「手に職を付けよう」と考え会計士の道を選び、サラリーマン的に働く監査法人での会計士生活に疑問を持っているのに、商社でサラリーマンになるのは確かに違うなと気づきました(笑)
そこで、改めて出会ったのが株式会社イーエムネットジャパン(以下イーエムネット)でした。イーエムネットはヘッドハンターの方を通して声をかけて頂きましたが、最大の決め手は社長との出会いです。弊社の社長は生粋のラガーマン(学生時代3年連続で全国大会(花園)に出場)で強いリーダーシップを感じ、また「諦めずにやり切る」という強い信念を感じました。そのため、この方とならIPOという目標も達成できるのではないかと感じました。また当時から、イーエムネットはビジネスが伸び、社員も若く元気がある会社でしたので、とても魅力的でやりがいのあるチャレンジでした。取締役CFOという未経験の領域に飛び込むことに不安がなかったわけではありませんが、監査法人に残って燻り続けていたかもしれないと思うとその方が恐ろしかったと思います。

muraihitoshi_3.png
監査法人経験はベンチャーCFOにどこまで通じるのか?
IPOを目指す企業のCFOとして入社し、まずは社内の管理体制全般の運用整備に取り組みましたが、やるべきことは沢山ありました。監査法人や証券会社からの指摘を手あたり次第つぶしていく日々が続きました。先程、M&A領域でアドバイザーと意思決定側の両側を経験し、意思決定側にならないと知ることができない世界があるなと痛感したことはお話しましたが、やはり想像していたとおりIPOにおいても全く同じでした。IPOに必要な知識・経験を10としたら監査法人での知識・経験は3~4ぐらいという印象で、残りは手探りの世界でした。IPOの専門家のようでいて、会計士の守備範囲はやはり狭いと実感しました。もちろん監査法人での経験が全く活きないわけではなく、全体の中で今どのあたりにいるのかは掴めますから、監査法人での経験は、いわば足場のようなものだと私は感じました。
それと同時に、証券会社の公開引受部の方々の知識や経験は、本当のIPOのプロだなぁと感心し、とても頼りになりました。
一番尽力をするのは当然にIPOを成し遂げる事業会社ですが、主幹事証券会社や、監査法人、コンサル等の方々のご指導、ご尽力には本当に感謝しています。私がノーケアだった部分や改善すべき点をどんどん指摘してくれて、ものすごく勉強をさせてもらいました。

2018年9月、弊社は様々な方の協力のもとに上場を果たすことができました。実際に上場を果たすことができるのは、上場を目指している企業の数十社に1社と聞いています。弊社は、色々な要素が重なってその1社になれたと思っています。上場日に上場の鐘を叩いた時は、嬉しさよりも無事辿りつけた安堵感やそれまで苦労の日々等、色々な思いがこみ上げてきて正直よく覚えていませんが、東京証券取引所に弊社の社員もたくさん来てくれていたので、皆に鐘の音を聞かせられるように人一倍大きく叩いたことだけはよく覚えています(笑)この機会をくださった社長はもちろんですが、社員にも本当に感謝は尽きません。

当然、上場はゴールではなくスタートであり、今後も会社を成長させていくために努力をしていかなければなりません。株主のためというのもありますが、会社の成長は社員のためにもなると信じています。株主という直接はお会いする機会がなかなかない方々が、会社に何を求めているのかを考え、会社の成長の為に次に何をすべきかをもっと考えて実行していきたいと思います。「上場企業の取締役」という立場には非常にプレッシャーも感じていますが、やりがいの大きさもそれ以上に感じています。

muraihitoshi_2.png
監査法人の外で見られる世界と監査法人で必要な視点
監査法人の外で改めて感じたことは、公認会計士資格は会計士が思うよりもずっと魅力的であるということです。監査法人にいると当然周りが皆会計士なので、公認会計士という肩書きは当然のものですので、その魅力になかなか気づくことができません。
しかし監査法人の外に出ると、公認会計士という資格は一定の信用が得られて、スキルも重用され、ビジネスの世界ではとてもプラスに働きます。初対面の相手の方に自分自身を信用してもらうことは、なかなか難しいことだと思いますが、「公認会計士」という肩書のおかげで「少なくとも変なヤツではないだろう」という信用は得られている気がします(笑)。監査法人で働く若手会計士の皆さんには、ぜひ公認会計士という資格を武器として、存分に活用して欲しいなと常々感じています。

監査法人での仕事でぜひ持ってもらいたいのは"視点"です。監査法人で活躍するためにも、将来的に監査法人から転職して活躍するためにも、クライアントのビジネスに興味を持って欲しいです。担当するクライアントがどんなビジネスを展開し、どのように収益を伸ばしているのか、なぜ業績が悪化しているのか、しっかり分析できるようになって欲しい。これは監査のリスクアプローチの基本だと考えていますが、監査業務をルーティンワークと割り切って仕事をしていると、視野が狭くなり、ビジネスの世界とどんどん乖離していってしまうからです。担当クライアントの直近3期の業績が頭に浮かばない方も多いのではないでしょうか?そういった方には、もう一度自分の仕事の取り組み方を考えて欲しいと思います。それを若いうちから取り組み、ビジネスの視点を持つことでキャリアの可能性も広がると考えています。

士業とは?公認会計士とは?
私はキャリアの中で、『士業』とは何だろうか?『公認会計士』とは何の資格だろうか?ということをよく考えます。私の考える士業とは『高度な専門性を要求される仕事を一人で自己完結することができること』だと認識しています。監査法人はチームプレーが基本で、マニュアル化・ルーティンワーク化が進んでいます。私は実際に監査法人で働いている時に、民間企業のサラリーマンとあまり変わらないのではないか、という疑問を感じていました。現状の会計士資格はどうでしょうか?あくまでも私の極端な発想ですが、監査法人に入社するための入社資格でしかなくなっているのではないかと感じたりもします。
若手や中堅の会計士には、監査法人でプライドを持って会計士として生きるのであれば、ぜひ責任のあるパートナーを目指してほしい、パートナーになりたいと思って欲しいです。監査論にもありますがパートナー以外は、結局、監査補助者ですので、監査法人で1人前の公認会計士になるというのは、やはりパートナーになる事だと考えます。残念ながら、私はなれませんでしたが(笑)。監査法人内でパートナーになりたいと思えていないのであれば、どこかのタイミングで独立や転職等の次の選択肢を考えた方がいいと思います。どの道を選ぶとしても、周りからプロフェッショナルだと認められる仕事をしてほしいですね。


村井様_prof.png
Profile
村井仁(むらいひとし)
早稲田大学卒業
デロイトトーマツコンサルティング株式会社(現アビームコンサルティング株式会社)、大手事業会社を経て、2006年に有限責任監査法人トーマツに入所。PEファンドへの出向等を経て、2016年に株式会社イーエムネットジャパン取締役CFO(現職)に就任。2018年9月東証マザーズ上場を果たす。
会計教育研修機構 東京実務補習所委員、講師