転職、起業、そして独立開業。夢中で突き進んで来た私が若手会計士に伝えたい事

転職、起業、そして独立開業。夢中で突き進んで来た私が若手会計士に伝えたい事

武田公認会計士事務所 武田雄治氏

決算早期化コンサルタントとして数多くの実績があり、セミナー登壇など幅広い活動を行う武田雄治氏。決算早期化の第一人者と称される武田氏は、これまでに監査法人、事業会社で働き、会計コンサルティング会社を設立し、その後個人事務所を開業するというキャリアを積み重ねてきた。「今は心からやりたい仕事ができていて幸せすぎるくらいです」と語る武田氏だが、これまでキャリア選択の背景にはどんな想いがあり、どう決断してきたのだろうか。

監査法人で圧倒的に経験を積むためには
会計士を目指すと明確に決めたのは、友人達が就職活動を始めた頃のこと。会計士を目指す学生としては、少し遅いスタートでした。
「周りから遅れた分を取り戻したい」
その想いが強く、入所先は"どこに入れば最速で成長できるか"という基準で選びました。幸いなことに、ゼミのOBがほとんどの監査法人にいるという状況でしたので、片っ端から会いに行き話を聞きました。どこへ行ってもマネージャーになるには10年くらいかかるという中で、東京のKPMGには6年でマネージャーになった人がいた。だったら私はKPMGに入所して5年でマネージャーになってやると決めKPMGに入所しました※。
※当時、KPMGの提携先は新日本監査法人
KPMGに入所した後は、自身の目標である5年でのマネージャー昇進を目指して必死に働きました。どれほど多忙であろうとも新規案件があれば絶えず手を上げ続けました。なりふり構わず仕事に打ち込み、気付けばKPMG内でも労働量の多さで名を馳せていた部署において、最も稼働している会計士となっていました。
もともと5年でマネージャーになって、監査法人を辞めようと考えていましたが、3年ほど経って1つ昇進した頃から、マネジメント的な仕事が増え始めました。今後マネージャーになったら法人内での責任がどんどん増していき、辞めるに辞められなくなりそうな気がして、「今辞めるべきではないか」と思い、4年目で退職しました。

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将来独立を目指して選択したキャリアとは
最初は独立しようと考えていたのですが、独立から転職に方向転換しました。当時の私は、監査はできるけど決算書を作ることはできなかった。決算書を作る側の課題や苦労が分からないままでは、独立後にまともにクライアントに助言できるわけがないと思ったんです。だったら、一度自分の手で決算を締めてみようと思い、事業会社へ行くことに決めました。

決めていた軸は3つ。(当時急成長していた)ITベンチャーであること、社内に会計士がいないこと、上場企業であること。この条件を満たす企業を見つけ転職しました。そして、この会社での経験が後のキャリアを決定付けることになりました。企業の経理部門は率直に言うと、ぐちゃぐちゃでした(笑)
急成長中で、組織の形も大きさも凄まじいスピードで変わっていくうえに、会計の専門家が不在で、本質的な解決がなされないまま、経理部の若手が気力と体力を振り絞って何とか回しているという状況でした。

『このままではいつか決算が回らなくなる』そう思いました。私は決算担当として入社したのですが、現場の決算担当からは外れて、決算の仕組みづくり、土台作りに専念させてくれと社長に直訴しました。OKをもらってからは必死でした。何しろ、上場企業の「経理の仕組み」を作り直す大仕事、しかも会計士は私一人。やっとの思いで作り上げた「経理の仕組み」がうまく機能した時の感動は今でも覚えています。経理部みんなの残業時間が減り、監査工数も大幅削減。決算までのスピードも以前とは比にならないほど早くなりました。

経験して見えてきた「本当にやりたい事」
無事、ゼロベースから決算の仕組みづくりに成功し、社内の「MVP」にも選ばれました。新たな「経理の仕組み」による工数削減もさることながら、決算までのスピードを早めたことによるインパクトがとても大きかったようで"決算の早期化"へのニーズの高さを実感しました。そして、そのニーズは決して自社に限らないものであると気付きました。東証から決算の早期化を促す通達が出されたタイミングでもあったからです。
『この会社で自分が為したことを、他の会社にも広めていきたい』そう決めたら、行動に移さずにはいられないのが性分で、社長に頼んで、社員から業務委託へと契約形態を変更してもらい、2005年1月に決算早期化をサポートするコンサルティング会社を起業しました。この時の起業は現在の個人事業主という形ではなく、法人としての独立でした。独立して成功している経営者への憧れもあり、法人として独立することにしましたが、社長業は想像していたよりも辛かったです。雇っていた社員は給与の高い会計士が多かったため、それを上回る売上を上げ続けなければならないという強迫観念に近いものを感じて動き続けていました。

当時は仕事の取りこぼしを恐れるがあまり、休みを取ることにすら恐怖を感じていました。しばらくすると、過労と接待交際のツケで体がおかしくなっていきました。寝ることができないほど重度の腰痛、高脂血症、尿酸値も危険水域。このままいくと死ぬなと本気で思い、改めて考えてみたんです。『私は、どこを目指しているんだ?』と。
行きついた答えは『私が働く理由は大金を稼ぐためでも、社長としてちやほやされるためでもない。お客様に直接ありがとうと言われる仕事がしたい』というものでした。自分の本当の想いを確認して、もう一度リセットしようと、そう決めました。

個人としての再独立を決め、三年間お金と時間と労力の全てを惜しむことなく注ぎ込んで育ててきた自分の会社に辞表を提出しました。自分が作った会社に資本金や人脈、お客様や備品も、全て残しましたが、それでも連帯保証は付いてきました。弁護士と一緒に何度も銀行に連帯保証を外して貰えるように掛け合いましたが「外すことはできない」の一点張り。会社は業績悪化で借金返済が滞り、残債務返還請求の恐怖が襲いかかってきました。再独立したばかりで頼れる人も、安定した収入もありませんでした。それから数年間はまさに地獄で、あの苦しみは経験しないと絶対にわからないと思います。実際、サービサー(債権回収会社)から訴えられ、和解金を支払って終審するまでに相当な時間とコストと精神的苦痛を負いました。あの経験をしてから私は「生涯誰も雇わない」と決めました。公認会計士として高い専門性のある仕事に専念したいと思ったら、社員の人生まで面倒を見る余裕はないと思ったからです。社長業をやりながら会計士業との兼務は無理です。

現在、コンサルタントとして仕事をそれなりに頂いていますが、未だに請求書も自分で作っていますし、切手を買うのも投函するのも全部自分でやっています。お客様に100%向き合うと決めて独立したのでいつも感謝の気持ちを込めて請求書を三つ折りして、記念切手を貼り、必ず『ありがとうございます』と念じながら両手で投函しています。私にとってはこれも大事な仕事。お客様と向き合い、寄り添いながら仕事ができていることに対する感謝を確認できる作業です。今は心からやりたい仕事ができていて幸せすぎるくらいです。

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大切なのは生き急がずに積み重ねること
周りから一歩遅れてのキャリアスタート、オーバーワークの監査法人時代、心身を擦り減らしながらの社長業、個人事業主として決算早期化のコンサルティングやセミナー活動等多様な道を歩んできたからこそ、若手会計士の方には伝えたいことがあります。
それは『生き急ぐな』『隣の芝を見るな』という二つです。
若くして大事を成す若者が世界的に増えてきた現代に、生き急ぐなという言葉はともすれば、時代に逆行しているようにも映るかもしれません。真意としては、『自分を磨き続けて欲しい』という想いです。今は独立しやすい時代で、自分一人が生きるくらいのお金なら独立して稼げるようになりました。でも、目先の小金に飛びついてしまうのは少しもったいないなと感じる時があります。そんなに生き急いじゃいけない。『自分のバリューと年収はいずれ必ず収斂する』これは私の持論なんですが、直近のお金や自由に踊らされて独立したり転職したりするのはリスクが高いと思います。今いる環境の中で吸収できるものを貪欲に吸収し、自分のバリューを磨き続けることによって、必ずそれに見合うように年収が追いついてきます。だから、生き急がずに積み重ねることの大切さを知ってほしい、そう思っています。

もう一つの『隣の芝を見るな』ですが、監査法人で働いている若手から見れば、独立した人や転職した人が羨ましく思える瞬間は誰にでもあると思います。残った自分達はずっと監査業務の繰り返し、事業会社で幅広い仕事を任されたり、若手起業家としてメディアに取材されたりしている彼らが輝いて見えるかもしれません。確かに、監査の技術や手続き自体は、心躍るものではないかもしれませんが、監査的なものの見方や考え方を学んで欲しい。それは今後どんな業界へ行こうと必ず役立つと断言できます。監査的なものの見方とは、大局的に俯瞰する力、数値を分析する力、違和感に気づく力などをいいます。これらは監査の経験を積むことでしか身に付かないと思っています。それを学び取れるまでは、周りに惑わされずに監査法人で経験を重ねた方が良いと思います。


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Profile
武田雄治(たけだゆうじ)
兵庫県出身、関西学院大学商学部卒業
KPMG(新日本監査法人・あずさ監査法人)を経て
ITベンチャー企業に転職、決算早期化を実現した後、このノウハウを
もっと広めたいと考え、会計コンサルティング会社を設立、代表取締役就任。その後個人で再独立、武田公認会計士事務所開業し現在に至る。
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