会計士は事業会社を経験せよ!!

会計士は事業会社を経験せよ!!

株式会社マクロミル 財務部長 森田一樹氏

有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)、アパレルベンチャーの経営企画を経て、現在はマクロミルで財務部長として活躍している森田一樹氏にお話を伺ってきました。これまで、国内監査、再生、上場準備、経理部長、財務部長と様々な経験をもつ森田氏。それぞれの立場で「経営」を見てきた中で、今後は監査だけではなく様々な経験を経た会計士がもっと必要だと感じているそうです。その理由とは何か伺ってきました。

会計士を目指したきっかけ
実は、会計士になろうと思った積極的な理由はありません(笑)。あったのは危機感だけでした。中高生時代は一切勉強をせず、部活漬けの毎日。高校が附属校だったので、大学へは進学できましたが、一番人気の法学部を選択できるほどの成績は取れておらず、やむなく商学部へ。その時にこれはヤバイと思ったんです。全く勉強してこないまま、大学生になってしまう。受験を経て入学してきた外部生とは比べ物にならないくらい出遅れているんじゃないかと。そこで、大学に入ったらなんでもいいから何か結果を残そうと決めました。進学先が商学部会計学科だったこと、中央大学内に経理研究所※があったことから会計士を目指そうと考えました。
軽い気持ちで通い始めた私が本気で会計士を目指すようになった一番の要因は、当時仲の良かった経理研究所の友人達。受験勉強の厳しさから辞めていくメンバーもいる中、仲良しメンバーは全員残っていたんです。これなら全員会計士になれるかもしれないと思い、皆で励まし合いながら必死に勉強しました。その甲斐あって、私含めてメンバー全員が在学中に会計士試験に合格。今思うと、信じられないくらい環境に恵まれていましたね。

※経理研究所...中央大学内に併設されているダブルスクール。

今でも活きる監査法人の経験
二次試験合格後、監査法人トーマツに入所しました。体育会系の風土だと聞いていたので、中高と部活に打ち込んできた私に合うのではないかと思いました。そして何よりも私のキャリアプランに合致していました。
著名な経営者のビジネス本に影響され、20代〜30代前半はがむしゃらに働き、30代後半〜40代で自分の型を作り、50代は人脈で生きようというプランを持っていました(笑)。
体育会系のトーマツなら、若いうちにバリバリ働けそうだし、自分のプランを実現できそうだなと。
入所後は、外に出ても使える人材になろうと目的をもって働きましたね。キャリアプラン実現のためというのもありましたし、働いているうちに、『いつか事業会社のCFOにチャレンジしたい!』と思うようになりました。そのために『監査法人で積める経験は全部積んでやろう!どんな問題でも解決できるようになってやろう!」と思ってクライアントのあらゆる課題や取組みに首を突っ込み、クライアントと解決策を試行錯誤しました。
また、多様な業種に関与できたという経験は、かけがえのない財産です。それと同じくらい貴重な経験だったと思うのが主任業務。クライアントからの第一報が入るのも主任。プロジェクトの責任を負うのも主任。それだけ色々なものが降りかかる立場を経験できたことは、とてもありがたかったですね。監査法人から出た今も、この経験は存分に活きています。

「やりたかったこと」とは?監査法人退職の背景
トーマツ時代は学ぶことも沢山ありましたが、悩みもありました。一番大きな悩みだったのはクライアントと自社、どちらを向いて仕事をするのかということ。社員である以上、所属組織の方を向いて仕事をするのが正解という人もいるかもしれません。実際に、クライアントを優先するあまり、社内業務が疎かになってしまった際には、上司から「お前はどこ見て仕事してるんだ?」と言われたこともあります。もっとクライアントに近い視点で働きたい。でもそんな志向ではトーマツでの将来には限界があるかもしれない。そう思うようになり、次第に転職を考えるようになっていきました。
上司にも相談したところ、私のやりたいことや思いを汲んだ上で引き止めてくれました。デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)への出向も勧めてもらいましたが、最終的には事業会社への転職を決意。DTFAの事業も楽しそうだとは思ったんです。でも、結局は第三者という立場からのアドバイスしかできない。私がやりたかった、クライアントに近い視点での仕事を追い求めるなら、クライアントつまり事業会社の中で働く方がいいはず。そして、事業会社の中でも経営企画に携わることができ、常に動きのある会社・成長できる会社という視点で転職先を探していた時に興味のあるアパレル業界のベンチャー企業からお誘いをいただき、入社することにしたんです。

moritakazuki_2.png
事業会社で会計士がチャレンジできること①
アパレルベンチャーでは、はじめての事業会社ということもあり、右も左もわからず最初は苦労しました。業界理解のために、毎日業界紙を読んだり、新しいファッションビルやショッピングモールが出来ると必ず見に行くようにしました(今でもやっていますが笑)。
仕事で一番印象に残っているのは、会社の再生業務です。入社直後は、予算作成や社内の会議体設計等のいわゆる経営企画業務と並行して、あるファッションブランドの日本法人買収案件を担当していました。ところが、買収案件の途中でストップがかかってしまったんです。当時、自社の在庫ロスが資金繰りを圧迫しており、買収なんてしている場合じゃないと。そこから、会社の再生業務が始まりました。私は主に資金管理と事業の売却をメインに担当。コスト削減や在庫処分、不採算ブランド売却や、新しいオーナー探しと資金繰りに奔走しました。コア事業に特化して中期事業計画も作成しました。その努力が実り、再生は軌道に乗せることができましたが、かなり過酷な日々でしたね。ただ、その分得られたものも多かった。
事業への理解が浅い会計士でも、会社が良くない状況にあるときこそ、知見を活かせる場が多いというのは感じました。どの会社も業績が悪い時こそ、お金や人材を見ている管理部門の意見が、経営上より重視される傾向にあるとは思いますが、私の場合は数字の人間として業務を主導でき、それをフックにビジネスの理解やノウハウを一気に深めることができました。
また、当時お世話になった上司の方々からはいろいろとアドバイスも頂きました。結果にこだわるようになりましたし、まだまだですが結果を掴むために「人」や「風」を理解しようと心がけるようになりました。

 そんな矢先に新しいチャンスが降ってきました。再生業務が一通り終わった直後に、マクロミルから再上場案件の誘いをいただいたんです。そもそも上場案件はずっとやりたいと思っていて、実はアパレルベンチャーに転職した時も、いずれは上場準備を担当したいと考えて入社しました。マクロミルであればいきなり上場準備に携われる。その魅力からマクロミルへの転職を決意したのが2015年11月のことでした。

事業会社で会計士がチャレンジできること②
念願の上場準備業務ですが、これが一筋縄ではいきませんでした。はじめは会社やビジネスに対する理解が浅い部分や、アパレルとの違いに戸惑うことも。入社後間もなく上場準備が始まりましたが、証券会社や東証からの大量の審査項目に対してどのように対応して行くのかが分からず、不甲斐なさを感じる場面もありました。また、非公開化後短期間での再上場で、かつ買収した海外子会社をグループに取り込んだ直後の上場ということもあり、何かと難しい局面もありました。
上場準備を経て会社や事業への理解が深まり、上場を果たした後は、少し方向転換をして、経理部長に従事しました。これまではずっとプレーヤーとしてさまざまなプロジェクトに特化して取り組んでいく働き方をしていましたが、ここでマネジメントを経験してキャリアを積みたいと思ったんです。
この判断は正解でした。今までとは仕事で関わる人が全く変わり、視野が広がりましたから。監査法人時代は会計士や税理士、前職では弁護士、コンサル、ファンド、商社の方々、上場準備では証券会社や東証、仕事で関わる相手は皆さんその道のプロ。
それが一変、メンバーと共に目標を掲げながら、常にカイゼン(改善)。
部門全体で結果を出していくことは、難しい点でもありとてもやりがいを感じています。

まだまだ、学ぶことばかりですが、とても魅力的な役員や社員の方々に囲まれ、ご指導・サポート頂きながら毎日楽しく働かせてもらっています。最近では財務部に異動しましたが、数字周りだけではなく事業全体への理解度をさらに上げ、経営に欠かせない人材を目指していければと考えています。

moritakazuki_3.png
後輩の会計士に伝えたいメッセージ
少し乱暴な言い方かもしれませんが、「みんな一度は事業会社に行け!」と言いたいです(笑)。
これまでの経験から本気でそう考えています。
誤解しないで頂きたいのが、監査法人には良いところはたくさんあります。例えば、経営情報に触れる機会の多さ。社長や経営陣に直接インタビューできる機会や、役員会議の議事録を見られたりするのは、普通の会社ではなかなかできません。そうした監査法人ならではの利点は、ぜひ有効に活用し成長して欲しいと思います。
一方で、監査法人の経験だけになるとどうしても視野が狭くなってしまいがちです。似たような業務が多く、関係者も大体同じ部署の方。こればっかりは仕方がないと思いますが、この制約を外して視野を広げようと思ったら外に出るのが手っ取り早いと思います。事業会社では自分事として何かを動かしたり、世の中のバリューにより近いところで影響を及ぼせたり、何より感謝をダイレクトに感じられます。私が事業会社に移って一番良かったなと思う部分です。人生お一人様一回限り、この喜びはみなさんにも味わってもらいたいですね。


moritakazuki_prof.png
Profile
森田一樹(もりたかずき)
中央大学商学部 卒業
有限責任監査法人トーマツ、アパレルベンチャーを経て
株式会社マクロミル 財務部 部長(現職)


メニュー