『自分の路を自由に歩んでいく』 ―対話と信頼を軸に、キャリアを築いてきた女性会計士の思いとは―

『自分の路を自由に歩んでいく』 ―対話と信頼を軸に、キャリアを築いてきた女性会計士の思いとは―

サイバー・バズ株式会社 常勤監査役 礒村 奈穂氏(公認会計士)。
2008年にあずさ監査法人(現 有限責任あずさ監査法人)に入所。
地方事務所にて監査業務のみならず、チームメンバーの育成から
業務の効率化を実現させるなど、幅広い経験を積み上げる。
2017年にサイバー・バズ株式会社に常勤監査役として就任。
対話と信頼を大切にし、経営陣とメンバーを繋ぐ架け橋としてご活躍中の礒村氏に
キャリアの考え方を伺いました!
多くの方に愛されている礒村氏ならではの、お話をたくさん伺うことができましたので、皆様にご紹介したいと思います!

会計士は自分の路を自分で決めるための道標                 
―会計士を目指した理由を教えてください。
かっこいい言い方をすれば、『自分の人生を自分で選ぼうと思った』のがきっかけです。
そう思ったのは大学3年生の時で、当時は就活が本格的に始まる時期でしたが、それまで漫然と過ごしてしまっていました。
よく、就活の際に「学生時代頑張ったことはなんですか」と質問されることがあると思うのですが、私の場合頑張ったことが何も思いつかなくて。
仮に、どこかの企業に拾っていただいたとしても、何もない状態の自分のまま社会人のスタートを切って良いのかなというところと、選ばれるだけではなく、自分でキャリアを選べる自分でありたいと思ったんです。
そういう気持ちの中で、大学で会計士のOBの方が講義をされる機会があって、講義を受けた際に、登壇された会計士の方がすごく自由でイキイキとキャリアを歩まれていらっしゃったなと感じて、これだ!と思いましたね。

―「イキイキと輝いている会計士」に自分の路を見つけたのですね。
その後は、監査法人に入所されるわけですがどのようにして監査法人への入所を決められたのでしょうか。

試験後に説明会などがあって、どうも監査法人に行くらしいと知りました(笑)。
説明会に行くと、東京事務所では特に金融やパブリックなど、分野別に分かれているんですね。特にやりたいことを考えていない状態で説明会に行っていて、正直自分がどうしたいかわからない状態だったんです。
ただ、自分の力で生きていけるようになりたいという気持ちはあったので、地方事務所だと分野の垣根がなく、色々なことを早く学べる環境である点に魅力を感じて地方事務所への入所を決めました。

―分野の垣根がないとのことで、多様な業務だったのかと思いますが、具体的にどのように働いていらっしゃったのでしょうか。
そうですね、本当に幅広い業務を任せていただいておりました。
担当するクライアントは非常に多くて、常に10~20社ありました。特殊なプロジェクトに入るというわけではなかったのですが、IPO準備企業から東証一部上場企業、パブリックなど、とにかく数を多くという感じでしたね。

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多様な経験を得ることができた監査法人時代                 
―多岐にわたる業務で、大変なことも多々あったのかと思いますがいかがでしたか。
そうですね。想像以上に多いなとは思いました。当時はそこまで残業制限も厳しくなく、オーバーワークになりやすい環境だったので、自分で考えて効率よく行動して残業せずに帰るということをどんどん極めていましたね。
最初は自分自身の業務から、年次が上がるにつれてチーム全体でも、無駄なことをしないとか監査時間を減らすとかそういうことは徹底してやっていました。


―イメージとして、年々業務量が増えていくのかなと思うのですが、どのように工夫されていたのでしょうか。
まず、私が主査を務めるチームでは、「うちは定時撤収だから」というのをチームメンバーにも最初に宣言していました(笑)。
基本的に業務は増えていく一方ですが、その基準のクオリティを担保しながら、いかに効率的にやっていくかを考えながらやっていましたね。
決算は年単位のものなので、事前にどれだけ計画してフォローするか等、ポイントを抑えて業務を進めていました。

―そのチームに入りたいですね(笑)。
ありがとうございます(笑)。時間に対する感覚は意識してもらうようにしていました。私自身がもうちょっとでキリが良いんだよなって時とかは「ごめん、5分残業していい?」みたいなことを言うと、他のチームでは定時に帰ること自体があまりなかったので、チームメンバーも「断らないで全然いいんですけど...」みたいな雰囲気ではありましたね。

―働きやすい環境を自分自身の手で作っていくということですね。
そうですね。男性の方でも、お子さんが生まれてもお子さんが起きる前に家を出て、寝た頃に帰宅するから子供の顔が見られないんですよね、といったことを当たり前のように仰っていたので、それは顔が見られた方が良いんじゃないかなとも考えていました。

―そんな中で次のキャリアのイメージなどは描かれていたのでしょうか。
私の場合、監査も好きでしたしクライアント様とのコミュニケーションを取ることも多くて、経理の方や役員の方からよく電話をいただいたりしていました。実際にお会いした際には「もう帰っちゃうんですか?」とか、監査部屋にお菓子を食べに来られたりとか(笑)。良い関係でいることのできるクライアント様が多かったです。
入社当時は自分で生きていける力をつけようという思いでしたが、監査法人でずっと続けたいなという気持ちになりましたね。

良好な関係性を築くために意識していること                 
―監査という立場上、クライアントとの関係性に悩んでいる会計士の方から相談を受けるのですが、礒村さんはすごく良好な関係を築いていらっしゃるなと感じました。
良い関係性を築くためのコツなどはあるのでしょうか。

そうですね、監査っていうと何かを指摘するといった、粗探しをするような存在に思われがちではあるのですが、クライアント様から相談をいただける状況に無いと発見も遅れますよね。
なので、相対するのではなく、寄り添って伴走すること、一緒にやっていきましょう、ということを意識していました。
新しい基準などが出てくると対応することも増えるのですが、そういう情報を事前に出してこういうスケジュールで行きましょうかみたいなところも、先方の経理の方のスケジュールも引いて、一緒にやっていける環境作りを大切にしていました。
そうすることで、例えば何か誤りが出た際も「これってどこが間違えているのですか?、教えてください」みたいな感じで、良い関係性を築けているからこそすぐ相談してくれたりしていただきましたね。


―お相手が相談しやすい環境作りが大切だということですね。
私の場合、クライアント様に恵まれていたなと思います。
比較的にクライアント様の経理の方って静かにオフィスでお仕事をされていることが多いのですが、空いている時間に少し雑談をしに来てくださったりとか(笑)。
だからこそ、いい関係性を築くことができていたのかなと思いましたね。
これは監査法人を出てから気づいたのですが、こういった関係ってあまり多いケースではないということもわかりましたね。


―良い関係性が築けているからこそ、課題発見のスピードも早くなりますもんね。
早いですね、こういったプロジェクトが持ち上がっている、という時点で相談していただいて気を付けるポイントを事前に伝えていると、どうすればいいのかということが相手も分かります。その上で取締役会での決定や稟議などの正式なものが挙がってくるので、最初からそれなりのものを提出していただけますし、やっぱり関係性は重要だなと思います。

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監査が好き!それでも転職に至った経緯とは                 
―続けたいなという気持ちがあった中で、実際に転職されているわけですが気持ちや環境の変化などはあったのでしょうか。
実際、辞めていますよね(笑)。
私は本当に監査法人での仕事が好きでしたが、転職には2つのきっかけがありました。
一つは監査の結果についてクライアント様に報告をする時に、上司から「あなただから伝えられることってなんなの?」みたいなことを質問された時です。過去を踏まえてA案、B案、C案ありますが、どれにしましょうかといった相談の仕方を上司にしていたのですが、その質問を受けた時に、その案に自分の意見って確かにないなと感じてしまい、こなすだけになってしまっていた自分の仕事の仕方や、自分が何をしたいのか、ということを考えるようになりました。
もう一つの理由は、育休を取ったタイミングでお世話になった方から外の世界を勉強してみたらと勧められたことです。現状に戸惑いを持っていた自分がいたこともあって育休中にキャリアを見つめ直そうと思いました。セミナーに参加したり、何か新しいことを学んだりしていく中で、監査法人の方向性と自分のキャリアの考えの方向性は違うんだということに気づきました。
そういった経緯から、転職ということを考えましたね。


―外から見てみることで視野が広がったのですね。具体的にどのようなセミナーに参加されていたのですか。
会計士ということから離れて、例えば元営業の方がやっているコーチングを受けたり、女性の方のリーダーシップのセミナーなどを受けたりして、本当に色々な学びを得ることができました。自分自身でも英語やコーチングの勉強もしていました。

―実際に転職活動はどのようにされていたのでしょうか。
最初は特に絞り込むことはせず、現職の監査役だけでなく業務委託など、個人のエージェントさんに繋いでいただいたりしながら、視野を広げて探していました。
その中で、監査法人で経験したからこそ得られたもの、自分の強みを活かすことを考えた時に、例えばIPOを数多く経験していることや、チームマネジメントなどは、業務委託というよりは、経営の中に入った方が役に立てるのではないかなという風に考えました。

―視野を広く転職活動をする中で、礒村さんが考えていた転職活動の軸はどのような点でしょうか。
そうですね。私は自分の強みをどう活かすかという点を考えていました。
やりたいこととは違うかもしれないのですが自分の価値の出しやすさからスタートしてずらしていくということも大事だと思います。
自信のない方も多いですが、監査法人で働いている方は優秀な方が多いですし、ハードな経験の中で自分のやってきたことや持ち味って必ずあると思うんですよね。
それが監査法人で活かせるのなら残るのも選択肢の一つとは思いますが、外部からどういったニーズがあるのかということも、聞いてみたほうがいいのかなと思います。
自分の強みはここだと思っていても、相手からみるとこっちの方が強みなんじゃないかということはあると思いますので、自分で考えるだけではなく周りの話を聞いてみて判断するということも大事かなと思います。

―そんな中で、現職で働く決め手はどういったポイントだったのでしょうか。
最終的な決め手は役員の方々との相性かなと思います。
ベンチャーの特徴として、会社のカラーが社長に依る部分が大きい点があります。
「好きにしてください」と非常に裁量をもって働くことのできる環境なんだと感じることができたことも決め手としては大きかったですね。
若いからとって、変に下と考えられているわけではなく同じ仲間として考えてくださるところはすごく器が大きいなと感じましたし、嬉しかったです。

―実際に転職をされてどうでしたか。
そうですね。入社した時に言われたことが「社員の方と仲良くなってください」ということだったので、監査法人時代から大切にしていた良い関係性を築くという経験はすごく活きたなと感じますね。

―具体的にはどのように活きているなと感じられますか。
常に相手をリスペクトしてコミュニケーションを取るということを大切にしています。法的な役割のほかに果たせる機能として、監査役は所属がなく上司も部下もいないので、従業員と経営陣の架け橋のような役割を果たせる部分があると思っています。
もちろん会計の知見も活かせるのですが、監査役は会計だけではなく
色々なレイヤーの方から相談を受けた課題をどう解決していくかということも重要なんです。
この場合、誰かに肩入れするというのは違うので、例えば従業員からこんなことで悩んでいるといわれた時も、何とかしてあげたいとはもちろん思うのですが、それが会社のためになるのかというところまで考える必要があります。これは必ずしもイコールではないですし、難しいことではあるのですが最終的に従業員も会社もいい方向になるように助言できることがベストですよね。
これまでの経験だけでは足りないこともあり、海外のMBAを取得して、色々と知識を得て、活かすようになりました。


選択肢を狭めるのはもったいない!数字のプロフェッショナルとして幅広い道を模索して欲しい理由                 
―今後の目標や展望を教えてください。
数年前から代り映えなく三つ挙げているのですが、一つが今までの自分の環境に恩返しをしていきたいということです。
私の出身が、仙台なんですけど、東北に何かできないかなとか、そこから広げて災害支援とか
何かお手伝いできないかなと考えています。
二つ目が、海外に住みたいということです。
これは目標というよりは願望って感じなんですけど(笑)。
オーストラリアの大学でMBAを取ったので、そのことでより気持ちが強くなりましたね。
三つ目は困っている人の声を拾って役に立ちたいということです。
見て見ぬふりとか当事者意識がないことによって、起こる悲しい出来事って世の中に色々あると思うんですね。
もちろん、全ての声を拾えるわけではないですし、そういった出来事は起こるものですが、少しでも減らせる手立てが打てないかということは思っています。


―最後に若手会計士の皆様へメッセージをお願いいたします。
私の場合は、監査が好きでしたし、時代によっては監査法人に残るという選択肢もあったかもしれません。
一方で、外に出てみて一番感じたことは、監査法人にいるとどうしても会計士という資格が標準装備になっているので、強みに感じられなかったりするのですが、やはり外の世界では強い武器になるということです。
なので、監査法人にいても例えば事業会社で働いている方や、それこそ転職エージェントさんのお話を聞くでもいいですし、様々な視点から自分を見つめ直すことで、自分の路を自分で決めて、イキイキと働いて過ごしていくことが大切なのかなと思います。
会計士の働き方と言ってしまうと、想像する選択肢が監査法人、コンサル、独立開業や事業会社の役員・経理というように片手で収まるくらいで、せっかく資格をとったのに選択肢を狭めるってすごくもったいないことだと思うんですね。
数字のプロフェッショナルとして考えれば可能性ってすごく広がると思いますし、
例えば芸術家の方が実は数字のプロ、というのも素敵じゃないですか。
身近なところで言えば、生活と数字って密接していると思いますしこれまで得た学びや経験は絶対に活かせるので、これまでの経験に自信を持ってどんどんチャレンジしていただきたいなということを伝えられたら嬉しいです。

―本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございました!

Profile
礒村プロフ.jpg
礒村 奈穂(いそむら なほ)
1986年生まれ 宮城県出身
横浜国立大学 経営学部卒業
有限責任あずさ監査法人
株式会社サイバー・バズ 常勤監査役
ボンド大学ビジネススクール修了(MBA)